本講演では,金星大気の超回転の維持機構について,探査機「あかつき」から 得られた診断結果を中心に話す。まずはしばしば漠然と捉えられている超回転 の理解を,形成と維持に分け,さらに後者を,全角運動量の長期の維持と,大 気内の角運動量分布の維持にわける。いずれも相互に関わるが,一旦分けるこ とで問が明快になる。「あかつき」による観測で扱えるのは最後の構造維持問 題であるので,以後はこれに注力する。その際,特に重要となる雲層の上部に 焦点を当てる。診断の枠組みとして変形オイラー平均(TEM)に基づく角運動量収 支の式を示し,その二大要素である,子午面循環による移流項と渦角運動量の 輸送項を検討する。前者は過去の探査機から得られている情報を整理して概算 する。後者をあかつきのデータに基づく雲追跡から得られた雲追跡風などにも とづいて推定し,理論的な考察で補う。あかつきで捉えられた各種の大気運動 についても紹介する。最後に,超回転の役割を大気大循環論の中で位置づける。 本講演は主に以下の論文およびそのオンライン補遺 Horinouchi et al, 2020 https://science.sciencemag.org/content/368/6489/405/ に基づく。