ここでは 音波計算(4) に関連し, 振動方程式の時間積分を陰的に行った場合の振幅の減衰率を, 増幅係数を用いて考察する.
振動方程式
dA/dt = iωAを時間方向に離散化し, 増幅係数を定式化する. 時間刻みを Δt, 時刻 t=(n+1)Δt における値の重みを β とすると,
An+1 - An = iωΔt [βAn+1 + (1-β)An],となる. これをまとめると
(1 - iωΔtβ) An+1 = [1 + iωΔt(1-β)]An,となる. このとき増幅係数 α ≡ An+1/An は,
α = [1 + iωΔt(1-β)]/(1 - iωΔtβ)となる.
増幅係数の絶対値は重み β の与え方により異なる.
これは完全に陰的に解いた場合である. このときの増幅係数の絶対値は
|α| = |1/(1 - iωΔt)| = 1/(1 + ω2Δt2)1/2 < 1となり, 振幅は Δt の取り方によらず減衰する.
これはクランク-ニコルソン法を用いた場合である. このときの増幅係数の絶対値は
|α| = |(2 + iωΔt)/(2 - iωΔt)| = 1となり, 振幅は増幅も減衰もしない.
これは陽的に解いた場合である. このときの増幅係数の絶対値は
|α| = |(1 + iωΔt)| = (1 + ω2Δt2)1/2 > 1となり, 振幅は Δt の取り方によらず増幅する.
β=1 の場合に増幅率の Δt 依存性について検討する. 具体的には, 時間刻みを Δt とした場合の増幅率の絶対値と, 時間刻みを Δt/2 とした場合の増幅率の絶対値との比較を行う.
時間刻みを Δt とした場合の増幅率を α0, 時間刻みを Δt/2 とした場合の増幅率を α1 とする. それぞれの絶対値は
|α0| = 1/(1 + ω2Δt2)1/2,となる. 積分時間は等しいとすると, 時間刻みを半分にした場合は時間ステップ数 は倍になるので, 正味の絶対値として比較すべきは α0 と α12 である. 両者を ωΔt の関数として図示し比較すると,
|α1| = 1/(1 + 0.25 ω2Δt2)1/2,
ωΔt が 3 程度より小さい範囲では, α0 < α12 < 1となる.
波の位相速度を c, 波長を λ とすると ω = c/λ である. したがって
Max(ωΔt) = cΔt/Min(λ) ∼ cΔt/Δxと考えられる. これはクーラン数に他ならない. クーラン数が 1 を大きく越える ような設定は考えないとすると,
Δt を小さくすると正味の減衰率は小さくなるということがいえる.