自己紹介文
はしもとじょーじ
Last Updated on 4 Apr., 2001.
- New Face (日本惑星科学会誌・遊星人、10, 29-30.)
はしもとじょーじ
George L. Hashimoto
東京大学気候システム研究センター
Center for Climate System Research, University of Tokyo
学位を取得してからもうちょっとで2年になります.同時期に博士号を取得した人々が次々と New Face を執筆するなか,自分には執筆依頼が来なかったので忘れ去られてしまったのかと寂しい思いをしていたのですが,ようやく編集委員から声がかかりホッとしております.
2年前に書いた博士論文の題名は「金星気候の安定性」というもので,内容はその名の通り,金星の気候・表層環境に関する理論的な研究をまとめたものです.惑星気候の研究と言えば昔から火星が大人気ですが,金星の方は昔も今もさっぱり人気がありません.おそらく金星の気候を研究している人の数は,自分を含めて世界中で数人でしょう.おかげでこの2年前の博士論文の内容は今でも世界の最先端のレベルを維持しています.まあそれはそれでいいことなのですが,研究についてつっこんだ議論をしてくれる相手がなかなか見つからないのが悩みの種です.金星の人気を高めるため,火星と同じように金星の生物化石を発見(ねつ造?)しようかと思いましたが,少し考えたら火星と違い金星起源の隕石はまだ発見されていなかったことに気づいてしまいました.
さて,人気のない金星気候の研究ですが,もともと自分が大学院に進学したときにはそんな人気のない金星の研究をする気など全くありませんでした.実際,修士課程の初めの頃は原始地球大気の化学進化が研究テーマでした[1].しかし修士2年のとき,金星の大気と地殻の化学相互作用の研究者としては世界の一流であるらしいワシントン大学の Bruce Fegley 教授が東大でセミナーをおこなったことをきっかけに,研究の対象が金星へと変わったのでした.ただしここでひとつ注意しておかなければならないのは,彼のセミナーに感銘を受けて金星の研究を志すことになったのではない,ということです.実際はどうなのかというと,彼をはじめ金星研究者の多くが仮定していた大気と地殻の化学反応で金星の大気量が決定されるとする仮説(carbonate buffer hypothesis)に重大な欠陥があることに気づいた,というのが研究の始まりなのでした[2].なんとも後ろ向きな研究の始まり方です.
その後,指導教官(東大・地球惑星物理の阿部豊先生)から金星の雲モデルを構築するという研究テーマをもらって修士論文を書くことになり[3],金星を研究するというその後の方向性が決まることとなりました.指導教官が何を考えて自分に金星の研究をさせたのかについては未だに謎のままであったりするのですが(まあ今となってはどうでもいいことですけど),この修士論文のおかげで自分は周囲の人から金星を研究する人として認知されるようになったようです.このことは金星の研究から抜けられなくなることを意味するものであったりもするのですが,今村さん(宇宙研)と共同研究[4]を始めるきっかけになったりもしたわけで,けっこう重要なことであったようです.
そして博士論文では,これまで別々に研究してきた,大気と地殻の化学相互作用,雲,放射による熱輸送,などの素過程を結合した金星気候モデルを構築し,それに基づいて金星気候を安定化するメカニズムを提案するに至ったのでした[5].この博士論文で提案された仮説はまだ検証されていません.というか,博士論文を書いていたときには近い将来に検証できるとは想像もしていませんでした.しかし最近,宇宙研で金星に探査機を飛ばそうという計画が急速に具体化してきました[6].そしてこの探査計画が実現し観測がおこなわれた場合には,自分の提案する仮説を検証できる可能性があります.自分自身,展開の速さに驚いているのですが,是非このチャンスをものにして探査で自分の仮説を検証したいと思います.惑星科学会の皆様方にも,金星探査計画への応援をよろしくお願いいたします.しかし,不思議な縁で始めた金星の研究ですが,探査機が飛んだら金星研究のブームが来るかもしれません.金星を研究している限り自分が流行の研究をするようになるとは思ってもいませんでしたが,先のことはわからないものですね(もっとも,探査機は飛んだけど金星の研究は流行らない,というのもありそうなことだったりするのだけど).
最後になりましたが,来年度(平成13年度)から学術振興会の特別研究員に採用されることになり,東大・気候システム研究センターで研究を続けることになりました.今のところ就職のあてがありませんので,ポストのオファーは大歓迎です.それでは今後ともよろしくお願いいたします.
[1] Hashimoto, G.L. and Y. Abe, 1995, Proc. 28th ISAS Lunar Planet. Symp., 126.
[2] Hashimoto, G.L. et al., 1997, Geophys. Res. Lett. 24, 289.
[3] Hashimoto, G.L. and Y. Abe, 2000, submitted to J. Geophys. Res.
[4] Imamura, T. and G.L. Hashimoto, 1998, J. Geophys. Res. 103, 31349.
[5] Hashimoto, G.L. and Y. Abe, 2000, Earth Planets Space 52, 197.
[6] http://www.ted.isas.ac.jp/~venus