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火星気候の安定性と進化

中村 貴純(東大・地球惑星)
2002 年 8 月 28 日
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タイトルページ


自己紹介


火星概観: 注目する点
  • 太陽放射
  • 地表面気圧


画像は http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA02405 より取得 火星の地表面の様子


画像は http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA02040 問題意識:
  • 過去から現在への気候の変遷はどのようなものか?


惑星の気候はどのように決まるのか?
  • エネルギーのバランスを考える
  • 気候を表す物理量として「温度」に注目


大気成分である CO2 の行き先
  • 大気
  • 極冠
    残存極冠の高さは 3 km 程度. 地質学的な考察から全てが CO2 とは考えにくい.
  • レゴリス (表面を覆う破砕物)
これらの間の釣り合いで大気圧が決まる.


火星のエネルギーバランスモデル (EBM) の系統図:
鍵となる要素は
  • 水平空間次元
  • 鉛直層数
  • 季節変化
気候変動研究に GCM を用いた例はまだない.


地球 EBM: North et al. (1981)
  • 惑星放射は現在の平均的温度 T0 のまわりで 1 次の展開をしたもの


考える物理過程


目指したモデル: Haberle et al., 1994
  • 赤道と極の 2 box モデル.
  • 温室効果は赤外放射に対する射出率係数で表現.
問題は
  • 大気が厚い場合の強い温室効果を表現できない


定式化: 大気の層数を増やして強い温室効果を表現できるようにする. 現在は 4 層.
  • 大気内部の鉛直熱輸送は考慮しない
  • 水平熱輸送係数 D に大気中の熱輸送効果(水平, 鉛直)が全て押し込まれている可能性がある.
  • 射出率の地表気圧依存性は鉛直 1 次元放射対流平衡の結果とあうように決める.


パラメータ: 熱容量と射出率


パラメータ: 南北熱輸送係数
  • 熱輸送係数の違いの影響は, 地表気圧 が 1 気圧より大きくなると現れる.


パラメータ: アルベドと顕熱輸送係数


レゴリス吸着量の定式化


画像は http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA02405 より取得 モデル計算の設定


大気圧の計算方法 (1)


大気圧の計算方法 (2)


大気圧の計算方法 (3)


極冠 CO2 量の計算方法


応答の時間スケールに関する注意 (1):
残存極冠のある場合

極冠のサイズは決められない

  • 極冠から射出される赤外放射はどこでも同じ
  • これに対し, 入射太陽放射は極に近いほどすくなくなる.
  • 凝結とともに地表気圧ちょっと低下したことにより凝結温度が下がる. その結果極冠の端にある CO2 は蒸発してしまう.
  • つまり, 極冠は長い時間スケールでは, より低温な方へじわじわと移動してしまう.



応答の時間スケールに関する注意 (1)

残存極冠は, 大気圧の擾乱を速やかに緩和する.



問題設定

自転軸傾斜変化による太陽放射の緯度分布変化に注目



自転軸傾斜の日射分布への影響.
  • 上段…傾斜が存在しない場合における日射の季節変化.
  • 下段…傾斜角 45°の場合における日射の季節変化.


計算結果: 太陽定数は現在値で自転軸の傾きを変化させた場合.
  • 自転軸は断続的に傾けていく. 各傾きで 1 万年計算


画像は http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA01247 より取得

図中の線が極冠の広がりを表している.



残存極冠解の別図
  • 図は温度分布. 140 K 前後で一定となっている領域が極冠.


極冠が存在する場合:
大気圧の季節変動は, 約 1.1mbar(実際は約 1.6mbar). 現在の観測と良い一致を示す.



解の分類として,
  • 無極冠解, 季節極冠解は完全蒸発状態.
  • 残存極冠解は, 極冠がリザーバの役割をしている.


解の遷移

  • 無極冠解()は温室効果が効いているので, 極冠が形成されない解.
  • 季節極冠解()では, 夏の昇華量が減少している. 自転軸傾斜角を小さくしていくことで, 残存極冠解()へ気候が遷移する.
  • 残存極冠解()では, 自転軸傾斜角を大きくしていくと傾斜角 31.25°で気候が 極冠の無い解 (,) へと遷移する.

気候の遷移を考えるため, 残存極冠解での 0 次元エネルギー収支を考える.

  • 太陽放射と南北熱輸送(収入: 赤線)
    • 自転軸が傾くと, 太陽放射が増加
    • 大気圧が高くなるとアルベド増加, 熱輸送増加
  • 惑星放射(支出: 青線)
    • 大気圧が高くなるほど, 凝結温度は上昇, 温室効果は増加.
  • 交点がなくなると気候ジャンプが起こる (緑点へ移動).
  • 残存極冠解の場合, 大気量にかかわりなく大気圧は決まってしまう.
  • 極冠が極に集まってしまう時間スケール と気候ジャンプにかかる時間スケールの比較によって, 極冠のサイズを決めることができるかもしれない.



極冠における 0 次元エネルギーバランスモデル.



極冠における 0 次元エネルギーバランスモデル.

収入(赤線)において南北熱輸送が無い場合の図


残存極冠解から無極冠解への解の遷移.

遷移中の極冠は季節極冠解?


不安定解について

  • Yokohata et al. (2002) の解釈で理解できる.
    • 大気量の摂動に対する正味の凝結と蒸発の変化を考えればよい.
  • 実際に大気量を安定解の状態から不安定解付近の状態へ増加させる と, 追加した量の微妙な違いで解の落ち着く先が異なる.


太陽定数を現在の 70 % にして自転軸の傾きを変化させた場合.

  • 残存極冠解から無極冠解, 季節極冠解へのジャンプはみられない.
    • 極ではなく中緯度に残存極冠ができてしまう.
    • 平均日射が極小となる緯度に対応している.
  • 残存極冠解にはヒステリシスが見られる.


上側三つの図は, 縦軸が緯度, 横軸が季節で, 青色が極冠の分布.

中緯度に残存極冠ができていく様子:
自転軸の傾きを 50 度から 52.5 度へ増加させた場合の極冠量の時間変化

  • 中緯度の極冠は 50 度付近で最終的に線 (ice ring) になる.
  • 50 度での氷の量はピークに達した後少し減少する. ice ring の中心が 50 から少しずれているため.



まとめ



付録: 鉛直 1 次元モデルによる暴走温室計算 (Nakajima et al., 1992)
  • 上図: 地表面温度の変化にともない大気構造の変化
  • 下図: 光学的厚さの計算式. 大気構造が飽和蒸気圧曲線で規定されるようになると, 光学的厚さは温度の関数になる.


付録: 鉛直 1 次元モデルによる暴走温室計算 (Nakajima et al., 1992)
  • 上図: 非凝結成分を増加させた場合の OLR の変化


付録: 鉛直 1 次元モデルによる暴走温室計算 (Nakajima et al., 1992)
  • 定圧非熱を増加させた場合


付録: 鉛直 1 次元モデルによる暴走温室計算 (Nakajima et al., 1992)
  • 乾燥大気の場合


参考文献
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  • NASA/JPL Planetary Photojournal, http://photojournal.jpl.nasa.gov/


Odaka Masatsugu, Youhei Sasaki & SUGIYAMA Ko-ichiro 2002-08-28