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大気-極冠 CO2 質量交換

横畠 徳太(北大・地球惑星)
2002 年 8 月 27 日
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タイトルぺージ


図は Mckay et al. (1991) Figure 3 より引用 過去の研究の結果

年平均表面温度から, 大気の安定性を議論

  • Gierasch & Toon (1973) は赤道で 200 K 固定としたため, 高圧側に安定平衡解が現れる.
  • 温室効果を考慮した Mckay et al. (1991) では高圧側の安定平衡解はない.
安定・不安定を解釈する際の注意
  • 圧力を決めると温度は (現在考えている時間スケールに比べ) すみやかに変化する. 任意の温度・圧力点を初期値としても, すみやかに実線上に落ちる.
  • 温度・圧力 2 変数の系を事実上圧力 1 変数の系として考えてよくなる.


過去の研究の問題点
  • 夏極-冬極の極冠蒸発量の差を評価する必要がある.


図は Baker (2001) Figure 8 より引用 考慮すべき要素: H2O 氷床


研究の目的


2 次元のエネルギーバランスモデル
  • 鉛直方向には 2 層. 大気からの赤外放射を計算する際には大気構造を考慮する.
  • 太陽放射, 地表気圧を与えて地表面温度, 大気温度を計算する.


モデルの計算設定
  • 与えるもの: 大気圧 p, 太陽放射 Fs
  • 求めるもの: 緯度毎の温度分布(地表面温度 Ta), CO2の蒸発凝結量分布


太陽放射の与え方
  • 緯度 80N, 80S 以上では CO2 極冠の存在を仮定.
  • H2O 氷床のサイズは アルベドをパラメータとして与えることで評価.


大気の赤外放射計算
  • 灰色大気
  • 対流圏は断熱温度勾配
圏界面の決め方
  • Ts, Ta を与え, 適当な圏界面高度を仮定する.
  • 対流圏は断熱温度構造, 成層圏は放射平衡を仮定する.
  • 圏界面での正味上向きフラックスを
    • 放射伝達方程式を陽に積分
    • 放射平衡の解析解
    から計算し, 両者が一致するかどうか調べる.
  • 一致したらそこが圏界面高度, 一致しなかったら圏界面高度をずらして再度計算を繰り返す.


吸収係数の圧力依存性
  • Pollack et al. (1987) の結果に一致するよう決めた.


Pollack et al. (1987) の放射対流平衡計算によって得られた, 地表面温度の表面気圧依存性.


今回の放射モデルによる地表面温度の表面気圧依存性.


緯度方向の熱輸送の表現 (Stone, 1973)
  • 拡散係数には圧力依存性のみ考慮.
  • 現在の値を Stone (1973) から利用する.


顕熱輸送の表現: バルク法


計算結果: 地表面温度の大気圧依存性
  • Pa=104 までは地表気圧の増大とともに冬極冠サイズは拡大
  • Pa=105 では地表気圧の増大とともに冬極冠サイズは縮小


CO2凝結量の見積もり
  • 潜熱の大きさから凝結量を見積もる
  • 80 N 以南に張り出した極冠 (季節極冠)は夏に全て蒸発する. このモデルでは夏極中高緯度のアルベドを小さめに見積もっていることになる.
    • 残存極冠サイズ依存性を調べる必要がある.


CO2凝結と蒸発との釣り合い
  • ここで考えるのは南北の残存極冠領域の凝結と蒸発
  • 季節極冠領域(80 N 以南)は考えない.


残存極冠サイズ依存性
  • 残存極冠サイズを大きくした場合どうなるか?


CO2 の凝結と蒸発との釣り合いから考えられる安定性


CO2凝結と蒸発との釣り合い


H2O 氷床がある場合の CO2の凝結と蒸発との釣り合い
  • H2O 氷床サイズの増大とともに, 不安定平衡点は高緯度側へ移動する.
  • 地表気圧が高く CO2 極冠のない状態は不安定となって, 低圧の安定平衡点へ遷移する (大気崩壊).


CO2極冠アルベドを変化させた場合の CO2の凝結と蒸発との釣り合い
  • アルベドの低下によって, 凝結-蒸発平衡点がなくなる.
  • 低圧の安定解は存在できなくなって, CO2 完全極冠は蒸発してしまう (暴走蒸発).


大気崩壊・暴走蒸発時の時間スケール


大気崩壊時のシナリオの模式図


暴走蒸発時のシナリオの模式図


自励的気候変動シナリオ


まとめ


今後の課題


不安定平衡圧力点の太陽定数依存性


Gierasch & Toon (1973) のモデル模式図


参考文献
  • Baker, V. R., 2001: Water and the martian landscape. Nature, 412, 228-236.
  • Gierasch, P. J. and O. B. Toon, 1973: Atmospheric pressure variation and the climate of Mars. J. Atmos. Sci., 30, 1502-1508.
  • Mckay C. P., O. B. Toon, J. F. Kasting, 1991: Making Mars habitable, Nature, 352, 489-496.
  • Pollack J. P., J. F. Kasting, S. M. Richardson and K. Polliackoff 1987: The case for a wet, warm climate on Mars, Icarus, 71, 203-224.
  • Stone, P. H., 1973: A simplified radiative-dynamical model for the static stability of rotating atmosphere. J. Atmos. Sci., 23, 405-418.
  • Yokohata, T., M. Odaka and K. Kuramoto, 2002: Role of H2O and CO2 ices in Martian climate changes, accepted for publication in Icarus.


Odaka Masatsugu, Sasaki Youhei & SUGIYAMA Ko-ichiro 2002-09-26