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/2005-03-09/
観測的宇宙論の進化論
須藤靖(東大・物理)
2005 年 3 月 9 日
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タイトルぺージ
- ハッブル宇宙望遠鏡
- HDF:Hubble deep field, 長時間露出で観測, 10 億年前の宇宙
- HUDF: Hubble ultra deep field, さらに長時間露出で観測, 4-7 億年前宇宙
- 4 億年前より古い宇宙は直接観測できない
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講義内容
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参考文献
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参考文献の紹介: 「宇宙を見る新しい目」
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参考文献の紹介: 人間原理
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宇宙論研究のゴール
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宇宙論研究の目的
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世界を知るためのアプローチ
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自然界の階層: ミクロとマクロをつなぐ
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物理学と窮理学
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天文学と窮理学
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曜日の名前
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遠くの世界はどうなっているのか?
- 観測により, 宇宙の果てがどうなっているかある程度わかりつつある
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宇宙の歴史
- 宇宙の晴れあがり: 宇宙全体が冷えることにより, それまでイオンだった原子が中性化
- 38 万年よりも前では光は直進しない. そのため電磁波による直接観測は困難
- 宇宙の誕生後 1 秒以降の現象に対しては現在の物理学を適用することが可能.
それより前の時刻の現象を議論するには物理学に何らかの外挿が必要.
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素粒子的宇宙論
- プランク時間: 重力定数, 光速, プランク定数から作られる特徴的時間スケール
- 4 つの基本的な力
- ダークエネルギーは真空の相転移にともなって生じたものとする解釈もある
力の分化
- 物事は単純な方向に統一されるのではないか, という予想に基づく.
- 弱い相互作用と電磁相互作用の統一はワインバーグ・サラム理論と実験によって確かめられている.
- 重力を除く 3 つの相互作用の統一は超対称性理論によって確かめられている.
- 3 つの相互作用が統一されたので重力も統一されて欲しい.
量子重力理論の存在
- 第 5 の相互作用は存在しないのか? 未来にむかってさらなる分化はないのか?
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宇宙論研究の歴史年表
- 「宇宙項」導入に対するアインシュタインのコメント(人生最大の失敗)は,
ガモフが自伝においてアインシュタインから言われたと記述されたもの.
- 宇宙の大構造: 宇宙における銀河の分布には偏りがある
- 1980 年代に
- CMB 温度揺らぎの発見 (1992) によって,
宇宙論に対する 2 つのアプローチが明確になった
- 巨視的アプローチ: CMB 温度揺らぎ(38 万年)以降の歴史を観測と理論によって調べる
- 微視的アプローチ: CMB 温度揺らぎ(38 万年)より前の歴史を理論を基に調べる
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宇宙論研究における重要な出来事
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一般相対論的宇宙論モデルの歴史
- アインシュタイン方程式は "宇宙の幾何学(時空)=物質の分布" という式
- 非常に簡単な場合は重力ポテンシャルのポアソン方程式になる
- アインシュタインは "ポテンシャル=空間のゆがみ" として考えた
- 左辺第 3 項が宇宙項, 係数 Λ を宇宙定数と呼ぶ.
- 現在は宇宙項は右辺に置くと考える.
暗黒エネルギーと呼ばれる. Λ は定数ではなくてもよい.
観測によると Λ はほとんど定数.
- 宇宙定数の自然な理論的な見積りと観測的制約は 120 桁ずれている!.
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フリードマン方程式
- 宇宙は一様, 等方であると仮定して, アインシュタイン方程式を書き換えたもの.
- a(t) は宇宙を球と考えた場合のその半径. 簡単な場合は
"運動エネルギー=ポテンシャルエネルギー" という式になる.
- 宇宙の曲率はニュートン力学では"運動の定数"になる.
- 宇宙の膨張速度(左辺)を観測からきめることができれば, 宇宙の質量(右辺)を見積もることができる.
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エドウィン・ハッブル
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ハッブルの法則
- 速度は特定のスペクトル線のドップラー遷移から決める.
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ハッブルの法則の解釈(1)
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ハッブルの法則の解釈(2)
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ジョージ・ガモフ
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α, β, γ 理論
- 元素合成は宇宙初期と星の内部考えられない.
- ごろ合わせのために Bethe 博士に入ってもらった.
当時 Physical Review の Editor.
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β の起源
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超非精密宇宙論
- 宇宙初期は高温であり, 現在とは異なる物質で占められていると考えた.
- 林忠四郎を除くと, 当時ガモフとその関係者以外でビックバン理論を支持した研究者は非常に少なかった.
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林忠四郎
- ガモフ理論の発表当時それを支持した数少ない一人
- 星の進化を研究
- 星の内部でヘリウムを大量に作ることは困難であることから,
宇宙初期の元素合成を消去法的に支持.
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宇宙背景輻射
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宇宙背景輻射の発見
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赤方偏移サーベイと宇宙の大構造
- サーベイ: 全天をくまなく調べること
- 銀河の分布は非一様
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宇宙の構造形成標準理論
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宇宙構造進化シミュレーションの例
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20 世紀宇宙論研究の到達点
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まとめ: 我々の宇宙は何からできている?
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ビッグバン宇宙論の観測的基礎
- ハッブルの法則
- 大量の He の存在
- 宇宙背景輻射
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銀河の分光観測と後退速度
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後退速度の決定
- この定義に従うと遠方の銀河の後退速度は光速を越えることがある
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ハッブル定数と宇宙の距離尺度
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ハッブル定数と宇宙年齢
- ハッブル定数が決まらないと宇宙年齢は見積もれない
- 係数が 1 程度になるのは偶然
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ビッグバン元素合成とバリオン密度パラメータ
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宇宙に存在する元素: 水素に対する数密度比
- 黄色は宇宙初期で合成
- 青色は星の内部で合成
- 桃色は宇宙空間で合成
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元素合成理論の比較
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ビッグバン元素合成の基礎過程
- ヘリウムの合成には中性子が必要, 水素と中性子の比がわかるとヘリウム存在量が推定できる
- ヘリウムより重い元素は作れない: 2 体反応はそれ以上先に進まない.
- 質量数 5 の安定な元素は存在しない
- 質量数 8 の安定な元素は存在しない
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ヘリウム存在量の推定
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宇宙初期の軽元素量進化
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宇宙マイクロ波背景輻射 (CMB)
- 3000 度を境に水素の電離度が急激に変化する.
- 水素原子の第一励起エネルギーは 1 万度
- なぜ 38 万年?
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CMB エネルギースペクトル
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CMB 全天温度地図 (COBE 衛星)
- 1965: 一様成分を観測, T = 2.73 K
- 1976: 二重極成分を観測,
CMB が一様に観測される系に対する地球(太陽系)の相対的な速度を観測,
v = 371 km/s
- 1992: COBE 衛星観測(二重極成分は除去, 中心は銀河面)
宇宙の温度ゆらぎを観測 (10E-5 K)
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CMB 全天温度揺らぎ地図の変遷
角度分解能
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WMAP 衛星の打ち上げ
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WMAP 衛星: 地球から宇宙の果てへ
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WMAP 衛星: 38 万歳から 137 億年の現在へ
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宇宙の古文書が教えてくれたこと
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宇宙論パラメータの決定
- 宇宙の進化を論ずるために重要なパラメータを観測から評価する.
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ニュートン力学的宇宙モデル
- ニュートン力学から出発してもフリードマン方程式と同じ方程式を導くことができる.
- 運動エネルギー K はフリードマン方程式における空間の曲率に相当する.
- K の符号によって宇宙の進化が異なる.
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相対論的一様等方宇宙モデルの運動方程式:
フリードマン方程式
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宇宙論パラメータと宇宙モデル
- 臨界密度: 宇宙が膨張し続けるか収縮に転じるかの臨界値, 宇宙定数は 0 とする.
- 密度パラメータ: バリオン+ダークマターを臨界密度で規格化したもの
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図の見方
- 縦軸は規格化された宇宙の半径, 横軸はハッブル定数の逆数で規格化された時間, t0 は現在の時刻
- 宇宙定数を調整するとアインシュタインの求めた静的な宇宙を求めることができる.
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宇宙論パラメータとその決定法
- 一様等方宇宙モデルでは密度パラメータは独立ではない.
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銀河の階層構造
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銀河に付随したダークマター:
観測される銀河の回転速度を説明するためには, "見えない=星ではない"物質が銀河のまわりに存在しないといけない
- 観測される回転速度はある半径以上になると一定になる
- 表面輝度分布から予想される回転速度はある半径以上になると減少する
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銀河団に付随したダークマター:
- 銀河団のまわりの高温ガスを重力的に拘束するために必要な質量は,
銀河団+ガスの質量の 10 倍
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重力レンズの分類
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重力レンズギャラリー:
全部で 60 個くらいの天体が HST で発見されている
- 上段中央: 強い重力レンズ
- 上段右: 弱い重力レンズ
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重力マイクロレンズによる MACHO 探査
- 大マゼラン星雲の星が銀河系のマイクロレンズ効果で増光する確率は
10E-7
- 10E+7 個の星一度に調べることで現象をとらえる
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重力マイクロレンズによる MACHO 探査
- 光度の時間変化が波長によらない天体を探す.
- 通常の偏光星の場合, 波長によって光度の時間変化が異なる.
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最初に発見された重力マイクロレンズ効果
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銀河系ダークマターの組成
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ダークマターの候補
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宇宙のダークマター
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宇宙のダークエネルギー
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ダークエネルギー存在の観測的示唆
- 宇宙の曲率は 0 であってほしいという審美眼的期待に基づく.
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Ia 型超新星の光度曲線の測定
- Ia 型超新星の最大光度は天体によらず一定
- 超新星天体までの距離を正確に見積もることができる
- 発生確率は 100 年に 1 回
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Ia 型超新星を発見する方法
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超新星と宇宙定数
- ダークエネルギーを仮定しないと観測される遠方の Ia 型超新星までの距離を説明できない.
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超新星と宇宙の加速膨張
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宇宙のダークエネルギー
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衛星によって宇宙の果てを見る
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CMB の揺らぎは重力ポテンシャルの揺らぎと考える
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CMB マップの解読方法
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WMAP の観測した温度ゆらぎのパワースペクトル
- COBE では原始密度ゆらぎの巾指数を見積もった
- ピーク位置の角度スケールから宇宙の曲率がわかる
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CMB と宇宙の曲率
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WMAP によって見積もられた宇宙論パラメータ
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ダークエネルギーは宇宙定数か?
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解読結果: 我々の宇宙は何からできているか?
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まとめ:
- 宇宙を構成する物質の大部分は何であるかわかっていない, ということがわかってしまった!
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宇宙論と人間原理
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物理屋的世界観
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生命の誕生と進化
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宇宙の誕生と進化
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必然性と偶然性
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インフレーション的世界観
- ある初期条件を満たす領域だけが我々の宇宙につながる
- 異なる領域でも同じ物理法則が成り立っているのか?
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物理法則と初期条件
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ここまでのまとめ: メタ宇宙原理
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我々の宇宙における不思議な事実
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自然界の絶妙なバランス(1)
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自然界の絶妙なバランス(2)
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自然界の絶妙なバランス(3)
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人間原理の立場
現在観測されている宇宙の在りようの原因を人間の存在に帰結させる考え方.
- Q:なぜ相互作用定数が現在観測されている値になっているか?
A:人間が存在しているから
- "神"の存在を持ち出すことなく現在の宇宙の偶然性を語ることをめざす.
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平行宇宙, Multiverse
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レベル 1 の Multiverse
- 宇宙は無限であることを仮定
- 異なる Multiverse 間で物理法則は同じ
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レベル 2 の Multiverse
- インフレーション宇宙論を仮定
- インフレーションを起こす領域がいくつもある
- それぞれの領域=宇宙のなかで物理法則, 基本物理定数の大きさは異なっていてよい
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レベル 3 の Multiverse
- レベル 1, レベル 2 とのつながりはあってもなくてもよい
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レベル 4 の Multiverse
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人間原理のまとめ:
- 究極理論に立つか人間原理に立つかは宗教観の違い?
- 人間原理はイギリスでは頻繁に議論されているが,
アメリカではほとんど議論されていない.
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まとめ: 20 世紀宇宙論の総括
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まとめ: 21 世紀宇宙論の展望
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栄枯盛衰: 研究の花道パターン
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究極の宇宙論を目指して
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参考文献
- 「宇宙を見る新しい目」(日本評論社、2004)
- 須藤 靖, 2004:
WMAPの成果. パリティ, 19, 1月号, 46-48.
- 須藤 靖, 2003:
進化する宇宙論. 日本の科学者, 38, 10月号, 4-9.
- 須藤 靖, 2002 :
不惑の宇宙論. 遊星人(日本惑星科学会誌), 11, 94-106.
- 須藤 靖, 2001 :
精密宇宙論から有朋自遠方来不亦楽乎的宇宙論へ. 岩波 科学, 71,
8月号, 1036-1046.
- 須藤靖, 1992 :
宇宙の大構造 -その起源と進化 ??. 「NEW COSMOS SERIES 第4巻」培風館
- 須藤靖, 東北大学 大学院集中講義
2002年講義録「観測的宇宙論」
- 須藤靖, 埼玉大学 大学院集中講義
2002年講義録「宇宙定数」
Nakagami Yuuichi
2005-03-17
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