クレーター研究について
クレーター研究から何がわかるか (まだ工事中なので文章だけ)
1. 太陽系天体における多様な衝突クレーター
月や水星、小惑星、氷衛星など大気を持たない固体天体の表面では多数のクレーターが観測されます。また、大気を持つ火星、金星、地球でもクレーターは存在しています。そもそもクレーターとはなんなのでしょうか?ものすごく簡単にいうと「穴ボコ」です。もう少し詳しくいうと、宇宙空間をさまよっている飛翔体の衝突によって形成された「衝突痕」です。実は、アポロが月に行く前までは、月のクレーターの起源については大きく二つの説、火山説と天体衝突説があり多くの議論がなされていました。その後の解明によって今では多くの科学者が天体衝突説を支持しています。もちろん、中には火山でできたクレーターもありますが、大気を持たない天体表面上で見つかるクレーターの多くは、天体衝突で形成されたものと考えられています。2. 衝突クレーターの形成メカニズム
では、実際に天体衝突でどのようにクレーターが形成されるのかを見ていきたいと思います。太陽系で起こる衝突現象の多くは非常に高速であり、地球や月ではだいたい秒速20kmくらいの速度で衝突します。このような高速衝突により衝撃波(超音速で伝わる圧力の高い波)が発生し、標的内部および衝突体内部を伝搬していきます。衝撃波通過により物質は激しく圧縮され壊されます。一方、衝撃波が衝突体の後面や標的の上部表面に達すると、その衝撃波は一転して圧力を解放する波(希薄波)に変わります。この希薄波が通過すると圧縮された物質は圧縮から一転し膨張を起こします。このようにして、衝撃波による圧縮と希薄波による膨張により、物質は衝突地点から外側へ流動するのですが、この物質の流れを掘削流と呼びます。この掘削流により、衝突直下の物質は下方に押し込まれ、その周辺の物質は縁付近に押上げられます。また表面近くでは物が外へ飛び出すのです。つまりこの掘削流こそが穴を作り出すわけです。一方外に飛び出す物質(放出物と呼びます)は、だいたい放出角度45度で飛び出します。衝突点に近い場所での放出速度は非常に速く、遠く離れるにつれて段々遅くなります。その結果、放出物の集団は逆円錐形状の放出物カーテンと呼ばれるものを形成します(図5)。そして、最終的に放出物はクレーターの周りに堆積します。このようにして掘削流による穴と盛り上がった縁、その外に堆積物領域が形成されます。ただこれで終りではなく、一旦形成されたクレーターの内壁は、重力的に不安定であるため、その後がけ崩れを起こし、瓦礫が底にたまります。こうして図1で見たようなお椀型形状が出来上がるわけです。 一方、複雑クレーターのようにスケールが大きくなると、クレーターの壁面では大規模な断層が生じ、段々畑のような構造になります(図6のテラス部分)。これが図2でみたテラス構造です。また、クレーターの底では深部物質が盛り上がります。これは、クレーター形成により物質が放出した分だけ地表部分が軽くなったため、地下内部の圧力の高い領域が上昇してくることによります(図6左)。これが図2でみた中央丘のでき方です。さらにスケールが大きくなるともっとダイナミックな現象がおこります。中央で盛り上がった物質は、その後重力により再び落ち込み、逆にその反動でその周辺を盛り上げます(図6右)。これがピークリングとよばれるものです。 天体の地殻厚さに匹敵するくらい大きなスケールのクレーターでは、地殻厚さ全体にわたって大規模な断層ができ、クレーターの外側に多数のリング構造ができると考えられています(図3)(ただし、多重リングクレーターのでき方についてはいろんな説があり、現在でも多くの議論がなされている)。ここまで大きくなると、もやは「穴」としてのクレーターというよりは地球で見られる盆地構造に近い形状になることから、これらを衝突盆地とも呼びます。実は我々が月をみたときに「うさぎ」にみえているものの正体は、この衝突盆地なのです(図7)。衝突盆地形成後に内部から噴出した溶岩が盆地の底にたまり、それらが黒く見えているのです。たまたま衝突盆地が重なりあった結果、あのうさぎ形状が作られたというわけです。3. 天体衝突と惑星進化の関わり
クレーターを調べることで、様々なことがわかります。例えば、クレーターの形状は、天体衝突が起こった時の天体表層の環境を反映しています。クレーター形成時に水や大気があると堆積物の形状が変わります。例えば図3右で見たランパートクレーターでは、地中に埋積していた水や氷が流れ出て、あの形状を作ったと考えられています。また大気があれば、放出物は空気抵抗を受けるために堆積形状も変わるのです。そのため、火星上の古いクレーターから新しいものまでいろいろ調べると、昔の火星表面にどれくらいの量の水や氷、または大気があったかの推測ができるわけです。 また、クレーターの大きさから衝突天体の大きさがわかります。また、その形状から、衝突速度や衝突方向(つまりは衝突天体の軌道)を知る手がかりが得られます。これらの情報は、太陽系初期に存在していた微惑星(惑星の元になったと考えられる多数の小さな天体)を知る手がかりになるのです。 もう一つクレーター研究の重要なものに、クレーター年代学と呼ばれるものがあります。ある天体表面が新しく形成された直後ではクレーターはありませんが、その後時間が経つにつれクレーターの個数は増えます。つまり単純に考えるとクレーターの個数が多いと、それだけ古いということになります。このようにクレーター個数から年代を推定する方法をクレーター年代学といいます。ただこの方法で具体的な年代を知るには、クレーター個数と絶対年代の関係を明らかにする必要があります。実はアポロ探査時代に地球に持ち帰られた月の石の年代が調べられており、月の石が回収された領域のクレーター個数と比較することで、その関係が明らかにされています。それをグラフにしたのが図8です。縦軸はクレーター個数の多さ、横軸は年代(右端が現在で、左に行くほど古い)です。この図から、古くなればなるほどクレーター個数が増えているのがわかると思います。ところが、ここに非常に重要な発見がありました。この図をよくみると、約38〜40億年よりも古い時代になると、増え方が急激になっています。これは太陽系の初期の時代に、非常に激しい天体衝突があったことを意味します。まるで宇宙から爆撃を受けていたかのような激しい時代であったのかもしれません。その事から、この時代のことを「隕石重爆撃期」と呼びます。このように、クレーターを調べることで、太陽系の歴史で起こった大事件が明らかになるのです。4. 天体衝突が及ぼす地球環境変動
月同様に地球にも多くの天体衝突は起こっていたと考えられていますが、地球上のクレーターは月のように多くは見つかりません。地球では風化作用等で古いクレーターはどんどん消されてしまうからです。 一方で、最近の研究により天体衝突現象は、地球の進化、特に私たち生命の起源と進化に大変重要な役割を果たしてきたと考えられています。恐竜絶命を引き起こしたといわれるチチュルブクレーターが有名な例です。このクレーターはメキシコ湾の底にあり、その大きさから衝突してきた天体の大きさは10kmくらいではないかと推測されています。では、なぜたった一回の衝突が起こっただけで、地球全体の恐竜が絶滅してしまったのでしょうか?今一番有力視されている説では、天体衝突によって環境変動が起こったからだといわれています。例えば、衝突によってまき散らされた大量の物質(塵)によって地球への日射量が減り、大きな環境変動が起こり、恐竜を絶滅に追いやったと考えられています。 また、上でみた隕石重爆撃期には、激しい衝突により表層が高温に加熱され、大量の化学分子ガスが放出されます。これらのガスが、地球の大気や海また生命前駆物質の進化に対して、重要な役割を果たしたと考えられています。このように、地球の過去に起こった天体衝突現象を調べることは、実は今我々が直面している地球環境問題にも関係する重要な事なのです。過去から学び、それをどう今後に活かしていくか?そういった視点からもクレーターの研究は注目されています。