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A. 準圧縮方程式系の導出

1 基礎方程式

地球大気における湿潤対流の定式化同様, 大気の乾燥成分と湿潤成分の 分子量の差は密度の式には考慮するが, 熱の式には考慮しないような 系を考える. この系では大気の熱エネルギーは乾燥大気の熱エネルギーで 決まることになる. このような系では温位 4#4 が保存量として使える.

1 気温 1#1, 密度 2#2, 風速 3#3 を予報変数とする場合

水平鉛直 2 次元大気の状態を 気温 1#1, 圧力 5#5, 風速 3#3, 密度 2#2 で表現する場合, 基礎方程式系は以下のようになる.

運動方程式
 
    98#98 (30)
    99#99 (31)

連続の式
 
100#100     (32)

密度の式(状態方程式)
 
101#101     (33)

熱の式
 
102#102     (34)

凝縮成分の混合比保存式
 
    103#103 (35)
    104#104 (36)
    105#105 (37)

ここで 106#106, 59#59, 107#107 は単位質量当たりの乾燥成分の 気体定数, 定圧比熱, 密度であり, 108#108 は非断熱加熱, 40#40 は気体成分の混合比, 41#41 は雲水混合比, 43#43 は雨水混合比である. 109#109 は, 凝縮成分の数だけ存在する. 110#110, 38#38, 39#39 を付けた項はそれぞれ 拡散項, 生成消滅項, 落下項を意味する.

密度の式には凝縮成分の混合比が考慮されている.

30#30 11#11 111#111  
  11#11 112#112 (38)

ただし, 113#113, 41#41, 43#43 はそれぞれ, 凝縮性気体, 雲水, 雨水の混合比を意味する. ここで乾燥成分の分圧 114#114 は.
115#115 11#11 116#116  
  11#11 117#117  
  11#11 118#118  
  11#11 119#119  

となるので,
120#120     (39)

である. 但し 121#121 は分子量を表し, 凝縮成分の体積は無視できるものと見なした. rho:rho, rho:rho_d 式より,
30#30 11#11 122#122 (40)

となる.
123#123      

と定義すると, rho:p-T_1 式は以下のように書ける.
30#30 11#11 124#124 (41)

また, 温位とエクスナー関数を用いて表現すると,
30#30 11#11 125#125  
  11#11 126#126 (42)

である. 但しエクスナー関数 6#6 127#127 の関係を満たす.

温位は乾燥断熱状態における保存量である. 乾燥断熱状態を表す熱力学の式は

128#128     (43)

である. ここで 1#1 は温度, 5#5 は圧力, 129#129 は単位質量当たりの比熱, 130#130 は比容である. theta1 式の 130#130 は, 理想気体の状態方程式を用いると,
131#131     (44)

と書ける. ここで 121#121 は分子量, 132#132 は気体定数である. theta1 式に theta2 式を代入し整理すると,
133#133     (45)

となる. 凝縮を生じない場合には気塊の組成は変化しないので 129#129132#132 は共に 5#5 に依存しない. 一般に 129#1291#1 の関数であるが, 129#129 を定数とみなすと,
134#134 11#11 135#135  
136#136 11#11 137#137  
138#138 11#11 139#139 (46)

となり, 温位が得られる.

2 温位 4#4, 圧力 5#5, 風速 3#3 を予報変数とする場合

水平鉛直 2 次元大気の状態を 温位 4#4, 圧力 5#5, 風速 3#3, 密度 2#2 で表現する場合, 基礎方程式系は以下のようになる. CReSS(坪木と榊原, 2001)では, この基礎方程式を用いている.

運動方程式
 
    140#140 (47)
    141#141 (48)

圧力方程式
 
142#142     (49)

密度の式(状態方程式)
 
143#143     (50)

熱の式
 
144#144     (51)

凝縮成分の混合比の保存式
 
    145#145 (52)
    146#146 (53)
    147#147 (54)

ただし温位 4#4
148#148     (55)

であり, 仮温位 33#33 は,
149#149     (56)

である. 音速 150#150
151#151     (57)

である. 59#59152#152 はそれぞれ単位質量当たりの 乾燥成分の定圧比熱と定積比熱であり, 153#153 という 関係にある.

圧力方程式は密度の式と連続の式を組み合わせることで得られる. まず密度を 154#154 として 2#2 の全微分を求める.

155#155 11#11 156#156  
  11#11 157#157  
  11#11 158#158  
    159#159  
  11#11 160#160 (58)

となる. pressure:theta-p:drho 式を圧力の式として整理すると,
161#161      

であり, 連続の式を用いると,
162#162      

となり, 圧力方程式が得られる.

3 温位 4#4, 無次元圧力 6#6, 風速 3#3 を予報変数とする場合

水平鉛直 2 次元大気の状態を 温位 4#4, 無次元圧力 6#6, 風速 3#3, 密度 2#2 で表現する場合, 基礎方程式系は以下のようになる. 連続の式 equations:continue と状態方程式 equations:rho を用いることで得られる圧力方程式を利用する. Klemp and Willhelmson (1978)では, この基礎方程式を用いている.

運動方程式
 
    163#163 (59)
    164#164 (60)

圧力方程式
 
165#165     (61)

状態方程式
 
166#166     (62)

熱の式
 
167#167     (63)

水蒸気および水物質混合比の式
 
    168#168 (64)
    169#169 (65)
    170#170 (66)

ただし, エクスナー関数 6#6 は,
171#171     (67)

であり, 音速 150#150
172#172     (68)

である.

運動方程式の圧力勾配は, 温位とエクスナー関数を用いることで得られる.

173#173 11#11 174#174  
  11#11 175#175  
  11#11 176#176  
  11#11 177#177  
  11#11 178#178 (69)

圧力方程式は密度の式と連続の式を組み合わせることで得られる. まず密度を 179#179 として 2#2 の全微分を計算する.

155#155 11#11 180#180  
  11#11 181#181  
  11#11 182#182  
    183#183  
  11#11 184#184  
    185#185  
  11#11 186#186  
  11#11 187#187 (70)

となる. pressure:theta-pi:drho 式を圧力の式として整理すると,
188#188     (71)

となり, 連続の式を用いると,
189#189     (72)

となり, 圧力方程式が得られる.

2 準圧縮方程式系の導出

準圧縮方程式系では, 変数を基本場と擾乱場に分離し, 線形化を行う.

1 基本場と擾乱場の分離

変数を基本場と擾乱場に分離し, 基本場は静水圧平衡にあると仮定する. この時, 変数は以下のように書ける.

    190#190  
    191#191  
    192#192  
    193#193  
    194#194  
    195#195  
    196#196  
    197#197  

但し, 198#198 とし, 基本場の風速 3#3 と雲粒混合比と雨粒混合はゼロと見なした. そして基本場には静水圧平衡,
199#199     (73)

の関係が成り立つものとする.

2 水平方向の運動方程式の線形化

水平方向の運動方程式を基本場と擾乱場に分離する.

200#200      

上式において移流項以外の 2 次の微小項を消去し, さらに基本場は 7#7 方向に は変化しないことを利用すると, 以下の擾乱成分の式が得られる.
201#201 11#11 202#202  
  11#11 203#203 (74)

ここで 204#204 は,
205#205     (75)

である.

3 鉛直方向の運動方程式の線形化

鉛直方向の運動方程式を基本場と擾乱場に分離する.

206#206      

上式において移流項以外の 2 次の微小項を消去すると以下となる.
207#207      

さらに静水圧の式を利用すると以下となる.
208#208 11#11 209#209  
  11#11 210#210  

ここで 211#211 は,
212#212 11#11 213#213  
  11#11 214#214 (76)

であり, DTheta 式の第 2 項を計算すると,
215#215 11#11 216#216  
  11#11 217#217  
    218#218  
  11#11 219#219  

であり, DTheta 式の第 3 項を計算すると,
220#220 11#11 221#221  
  11#11 222#222  

であり, DTheta 式の第 4 項を計算すると,
223#223 11#11 224#224  
  11#11 222#222  

となるので,
225#225     (77)

である. ここで擾乱成分は平均成分に比べて十分に小さいので, 全量を平均成分に置き換えることで,
226#226     (78)

となる. これを用いると, 擾乱成分の速度 227#227 の式は以下のように書ける.
208#208 11#11 228#228  
    229#229  

4 圧力方程式の線形化

Klemp and Wilhelmson (1978) では, 非断熱的な加熱による熱膨張と 凝縮に伴う圧力変化を無視し,

230#230      

として定式化した. 本モデルで考える系では, 凝縮成分が十分に小さいので, この近似を用いることとした.

圧力方程式に関して, 平均成分と擾乱成分に分ける. ただし, 擾乱成分は平均成 分よりも十分小さいという仮定を用い, 231#231, 232#232 とする.

233#233      

上式では 35#35 を平均成分と擾乱成分に分離して 2 次の微小項を 無視すると, 234#234 と等しくなることを利用している.
235#235 11#11 236#236  
  237#237 238#238  
  11#11 239#239  
  237#237 240#240 (79)

ただし 241#241, 242#242 であることを用いた. 平均成分は 8#8 にのみ依存することを利用し, また 2 次の微小項を無視する.
243#243      

さらに 6#6 を理想気体の状態方程式で変形してまとめると, 圧力の擾乱成分の時間発展方程式が得られる.
244#244 11#11 245#245  
  11#11 246#246  
  11#11 247#247  
  11#11 248#248  

以上より,
249#249     (80)

である.

5 熱の式の線形化

熱の式を平均成分と擾乱成分に分離する.

    250#250  

ここで平均場の量は 8#8 の関数であることを用いると,
    251#251 (81)

となる.

6 混合比の保存式の線形化

凝縮成分の混合比の保存式についても, 変数を平均成分と擾乱成分に分離する. 熱の式と同様に, 以下のように書ける. 但し, 生成項, 落下項は擾乱成分のみ 存在すると仮定する. この仮定は平均場では凝縮は生じていないと考えることに 等しい.

    252#252 (82)
    253#253 (83)
    254#254 (84)

但し雲水量と雨水量は擾乱成分のみの量である.

3 まとめ

準圧縮方程式系は以下のようにまとめられる. ただし, 擾乱を示す 255#255 は 除いた.

運動方程式
 
10#10 11#11 256#256 (85)
13#13 11#11 257#257  
    258#258 (86)

圧力方程式
 
259#259     (87)

熱の式
 
260#260     (88)

凝縮成分の混合比の保存式
 
    261#261 (89)
    262#262 (90)
    263#263 (91)

Yamashita Tatsuya 2011-03-01