Ekman 螺旋


持つべきものは友 ?

この実験を始めた当初, 再現性が非常に悪かった. どうも水面付近でなにかが起こっているらしく, 表面近くの作業流体の屈折率が明らかに違う. 実験を始める前に, 表面も含めてよく撹拌しているのだが, 実験をはじめてみると表面でなにかが違う. 「どこが Ekman 螺旋なんですかぁ?」と学生に聞かれて 答えに窮してしまった.

学生実験が終わり一人で考えているところへ, 友人がやって来て「何難しい顔してんねん」. 彼は全く専門外の人間なのだが, 私の説明を聞くと「そんなん, 表面の水とったらええやん」. 「そういう問題かなぁ」とブツブツ言いながら, ティッシュペーパーを水面に浮かべるような形で表面の水を吸い取り, 回転台を回してみたら, なんときれいに螺旋ができてしまった. かくして,

  1. ティッシュペーパーで表面の水をとる.
  2. 直ちに回転を始める.
  3. スピンアップ完了後 (約3分) 直ちに色水を射出.

という「おまじない」が確立した.

グリセリンは乾かない

「おまじない」はできたものの, 表面で何が起こっているのかは, 依然として判らなかった. 最初はグリセリン水溶液の水が蒸発して「固い膜」ができるものと 思い込み, 加湿器で部屋全体の湿度をあげてみたりしたが効果はなかった. いろいろ調べてみると, グリセリンは吸湿性が非常に高い. どうやら, 水が蒸発したのではなく, 逆に空気中の水分を吸収してしまうらしい. 表面にできていたのは「固い膜」ではなく, 「柔らかい膜」であった. 水っぽいグリセリンは軽く, サラサラしている (粘性が低い) ので, 撹拌してもなかなか混ざらないらしい.

百聞は一見にしかず

ある日, 学位論文を書いたばかりの大学院生がやってきて, この実験のビデオをみた.
   学生:「へえ, Ekman 螺旋ってほんとにできるんですね」
   私:  「おいおい, Ekman 螺旋できなかったら, 君の論文だって書けないじゃない」
   学生:「でも, Ekman 螺旋なんて机の上の話だと思ってましたよ」
   私:  「ということは, 君の論文も机上の空論だったわけ?」