% 表題: 月惑星シンポジウム 報告書
%
% 履歴: 2001-08-19 杉山耕一朗; とにかく書いてみたバージョン

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\begin{document}

\twocolumn[
   \begin{center}
    {\LARGE {\bf 木星型惑星大気の熱力学計算}}

    \vspace{7mm}
    {\bf 
            杉山 耕一朗 (北大$\cdot$理),
	    小高 正嗣 (東大$\cdot$数理),
	    倉本 圭 (北大$\cdot$理),
            林 祥介 (北大$\cdot$理)
     \vspace{3mm} }
  \end{center}


  ]


\section{はじめに}

木星型惑星大気の雲構造を把握しようという試みは未だ成功していると言いがた
い. 木星の厚い雲のために, 表面付近の雲の上端の動きしか光学的に観測できな
い. ガリレオプローブの観測によって雲の鉛直構造が観測されると期待されたが, 
実際には雲の存在しない領域に落下してしまい, 雲対流を解明するのに必要なデー
タは得られなかった. 一方で木星の雲対流を数値的にシミュレートしようとする
試みも行われている. Nakajima {\it et al}. (2000) は地球の雲対流モデルを
木星条件で走らせ, 流れ場の構造が「2 階立て構造」になる可能性を示した. 
しかし地球の対流モデルを利用しているために, 凝結物質として水しか考慮され
ていない. 木星大気中の凝縮物質の中で最も存在量が大きくかつ潜熱が大きい物
質は水である. そのため木星大気の平均的な対流構造とそれにともなう雲分布を
決めるのは水の凝縮であると考えられていた. しかし水の凝縮のみを考慮した木
星大気の直接対流計算では, 大気全体を覆うような木星大気表層の雲分布を再現
することはできなかった. 木星大気の平均的な雲分布がどのように形成・維持さ
れているかはまだよく明らかになっていない問題である.

\bigskip


過去の研究結果から, 水以外の凝縮物質であるアンモニアと硫化アンモニウム
の流れ場に対する影響が示唆される. これらの凝縮による流れ場への影響は 
これまで全く調べられていない. 本研究は木星大気における複数の凝縮物質の
存在に注目し, それによる対流の流れ場への影響を数値的に調べるものである.
我々は水以外の凝縮物質の凝結過程も含めた木星型惑星雲対流モデルを構築し, 
それによって木星雲対流の構造を理解しようと考えている. その立場に立って過
去の研究を振り替えってみると, 雲対流構造を理解するために必要な知見が未だ
まとめられていないことに気づく. 雲対流構造を把握するためには, 大気の鉛直 
1 次元構造をあらかじめ知っておくことが重要である. 流れ場の計算のためのス
キームを組む上で基礎となる情報だからである. 熱力学的に決まる対流平衡構造, 
つまり断熱温度減率と凝縮物の分布を把握する必要があるし, 熱力学と放射によっ
てきまる加熱率の分布も必要である. しかし過去の木星大気の熱力学, 放射に関
する研究では, 主に物質の分布に重きがおかれ, 対流平衡状態を知るために必要
とされる断熱温度減率すら求めていない. 過去の代表的な研究として
Weidenschilling and Lewis (1973), Atreya and Romani (1985) があるが, 
彼らの研究では物質の分布は計算しても, 断熱温度減率は求めていない. 

\bigskip


本研究では, 木星型惑星大気の対流平衡状態を記述するための熱力学コードを開
発することを目的とする. そのコードを用い, 断熱線に沿った熱力学状態, つま
り鉛直 1 次元の断熱温度減率と大気組成の変化を計算する. 

\bigskip

木星型惑星の大気中では固体の水やアンモニアだけでなく, 化学反応によって硫
化アンモニウム, 凝縮物の混合によってアンモニア水溶液が生成されると考えら
れている. 断熱温度減率と凝縮物質の鉛直分布を計算するためにはこれらの化学
反応と凝縮物質の混合を考慮しなくてはならない. 水の凝縮だけを考えればよい
地球大気の場合に比べ計算は複雑である. そのため熱力学コードを作成する上で
系に含まれる物質の変更が容易な熱力学コードを作成することとした. 従来の熱
力学計算では, どのような化学反応が生じているか把握していないと計算できな
い. そのため新しい物質を追加する場合には, 必要となる化学反応式を再考し, 
その場その場に応じて計算アルゴリズムを変更する必要があった. このような計
算方法は現在の目的において利用しにくい. 化学反応を考慮しなくて済む熱力学
コードが求められる. 



\section{計算方法}

過去の木星型惑星大気の断熱温度減率と凝結物質の鉛直分布を計算した例として 
Atreya and Romani (1985) がある. 彼らはエントロピー S の保存式を, 理想気
体の状態方程式と潜熱・反応熱を用いて温度・圧力・組成の関数として定式化し
た. この定式化では空気塊において生じうる全ての化学反応を知る必要があ
る. しかし木星型惑星大気における化学反応の全容は明らかになっていない. 組
成の違う大気を考える場合には, 生じうる化学反応が変わるので, 数値コードを
書き換える必要がある. そもそも平衡状態を仮定しているので, 化学反応に関す
る情報がなくとも断熱温度減率と凝結物質の鉛直分布は計算できるはずである.

\bigskip

そこで本研究では大気中で生じる反応式を考えずに済み, さらに大気組成を簡
単に変更することのできる熱力学計算手法を検討する. そしてその手法を用い
て大気の断熱温度減率と凝縮物質の鉛直分布を計算する.

\bigskip

上記の目的のために, 大気の平衡状態を計算し, それを用いて断熱線を求めるこ
とにする. まず (1) 温度・圧力固定, 元素数保存の条件のもとギブスの自由エ
ネルギー $G$ を最小化し, 平衡組成を求める. (2) 温度・圧力空間での平衡組
成を用いてエントロピー $S$ を計算する. 温度・圧力空間でのエントロピー
$S$ から断熱線 $dS = 0$ を計算する. 尚, 断熱線の計算においては擬湿潤断熱
変化を仮定する. これは気体が凝縮した際に, 凝縮物が系から離脱すると考えた
場合に実現する断熱減率で, 離脱した凝縮物質も含めた全エントロピーが保存す
ると考える. 



\bigskip

(1)大気の平衡状態の記述: 熱力学変数として温度・圧力・物質存在量を選択
する. このとき大気の状態を与える適切な熱力学関数はエントロピー S では
なくギブス自由エネルギー G である. 大気の平衡状態は, ギブス自由エネル
ギー G が最小化された状態であるとする. 温度・圧力を与えると, G は化学
ポテンシャルと物質存在量の積の全物質に関する総和として表現される. ギブ
ス自由エネルギーG の最小値は元素組成を固定した条件下において, 各化学種
の存在量を逐次近似的に最適化させることによって求めることができる.  大
気の状態を G によって記述したので, 潜熱・反応熱の代わりに化学ポテンシャ
ルのリストを与えればよい. 化学ポテンシャルは既存の物性データから求める
ことができる.


\begin{eqnarray}
G(T, p, n^{\phi}_{i}) 
&=& \sum \mu_{i}^{\phi}(T, p, n^{\phi}_{i}) n_{i}^{\phi} \nonumber \\
&=& \sum 
    \left\{
        {\mu_{i}^{\circ}}^{\phi}(T) 
      + RT \ln \frac{n_{i}^{\phi}}{\sum n_{i}^{\phi}}
      + \alpha RT \ln{\frac{p}{p_0}} 
    \right\}
    n_{i}^{\phi} \nonumber
\end{eqnarray}

\bigskip


(2)エントロピーの計算: エントロピーは Maxwell の関係式から求めることがで
きる. 温度, 圧力, 化学ポテンシャル, 平衡組成を与えることによってエントロ
ピー $S$ が求まる. 

\begin{eqnarray}
S 
  &=& - \left( \DP{G}{T} \right)_{p, n_{i}} 
    \nonumber \\
  &=& - 
    \sum_{i} \left\{ \DP{{\mu_i^{\circ}}^{\phi}(T)}{T}
    + R \ln \left( \frac{n_i^{\phi}}{\sum n_i^{\phi}}\right) 
    + \alpha R \ln p \right\} 
    n_{i}^{\phi} \nonumber
\end{eqnarray}

\bigskip



(3)大気の断熱変化の記述: 大気の断熱変化はエントロピー S の保存として記述
することができる. 温度・圧力空間で dS = 0 の曲線の通る軌跡を順にたどれば, 
断熱温度減率と凝結物質の存在量を求めることができる.

\begin{figure}[h]
\begin{center}
\Depsf[140mm]{../ps/pseudo3.eps}
\end{center}
\caption{断熱線の求め方. Step1: 初期温度 $T_0$, 初期圧力 $p_0$での平衡組
 成を計算し, エントロピー $S_0$ を求める. Step2: 圧力 $p_1 = p_0 + dp$ 
 に変化させる. 温度を変化させた時のエントロピーを順次計算し, 前のステッ
 プでのエントロピー $S_0$ と一致する温度 $T_1$ を求める. Step3: $T_1,
 p_1$ において凝縮が生じた場合, 次のステップで保存させるエントロピーは,
 $T_1, p_1$ での気体成分のみのエントロピー ${S_4}_{\rm gas}$. Step4:
 Step 1 から Step 3 において得られた温度・圧力を順に結んで断熱線を引く. }
\end{figure}



\section{計算結果}

大気成分気体やその凝結成分を理想気体, 理想溶液の法則に従うと仮定し, 
上記の計算手法に則って木星大気における凝結物質の鉛直分布を計算し
た. モデルの検証を行うために, 大気組成は Atreya {\it et al.} (1999) と同
様にした. 


\subsection{モデルの検証}

大気組成を Atreya {\it et al}. (1999) と同様にし, モデルの検証を行った. 
その結果は \Dfigref{kenshou-1}, \Dfigref{kenshou-2} に示す.
\Dfigref{kenshou-1} では大気組成の変化から凝縮物質の鉛直分布を計算し, そ
れを Atreya {\it et al.} (1999) と比較している. 比較の結果, 凝縮高度, 温
度分布共に Atreya {\it et al}. (1999) の結果と一致している.
\Dfigref{kenshou-2} は H$_2$O(g), NH$_3$(g) の分圧と飽和蒸気圧とをプロッ
トしたものである. H$_2$O(g), NH$_3$(g) 共に凝縮が生じてからは, 分圧と飽
和蒸気圧とが一致している. これにより, モデル中で相平衡が正確に再現されて
いることがわかる. 


\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[70mm]{../ps/cloud-t.eps}
\end{center}
\caption{
 本研究の雲密度・温度分布
 }
\Dfiglab{kenshou-1}
\end{figure}

\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[70mm]{../ps/AW1999.ps}
\end{center}
\caption{
 Atreya {\it et al.} (1999) の計算した雲密度・温度分布}
\end{figure}


\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[60mm]{../ps/vaper-H2O-edit.eps}
\end{center}
\caption{
 H$_2$O 分圧と飽和蒸気圧
 }
\end{figure}





\subsection{対流平衡状態の計算}

本モデルを用いて対流平衡状態を計算した. それにより, 鉛直温度分布を計算し
た. その結果を


\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[60mm]{../ps/therm.eps}
\end{center}
\caption{
 鉛直温度分布
 }
\end{figure}

\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[60mm]{../ps/gamma-edit.eps}
\end{center}
\caption{
 H$_2$O 分圧と飽和蒸気圧
 }
\end{figure}

\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[60mm]{../ps/stability-new-edit.eps}
\end{center}
\caption{
 H$_2$O 分圧と飽和蒸気圧
 }
\end{figure}



\section{まとめ}


木星大気の熱力学状態を計算するための熱力学コードを開発し, 実際に計算を行っ
た. その結果, 未だまとめられていなかった大気の断熱温度減率を計算すること
ができた. 










\section{参考文献}

\begin{description}

\item
Atreya, S.K., Romani, P.N., 1985: 
In: Hunt. G.E. (Ed.), Planetary Meteorology. 
Cambridge University Press, pp. 17--68. 

\item
Weidenschilling

\item 
Nakajima

\end{description}


\end{document}