% 表題: 月惑星シンポジウム 報告書
%
% 履歴: 2001-08-19 杉山耕一朗; とにかく書いてみたバージョン
% 履歴: 2001-08-28 杉山耕一朗

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\begin{document}

%\twocolumn[
   \begin{center}
    {\LARGE {\bf 木星型惑星大気の熱力学計算}}
    \vspace{7mm}

    {\bf 
            杉山 耕一朗 (北大$\cdot$理)\\
	    小高 正嗣 (東大$\cdot$数理)\\
	    倉本 圭 (北大$\cdot$理)\\
            林 祥介 (北大$\cdot$理)
     \vspace{3mm} 
    }
   \end{center}
    \begin{abstract}
木星型惑星大気の温度と凝結物質量の鉛直分布を求めるための平衡熱力学計算手
法を新たに開発した. 用いた方法は, 熱力学関数を最小化して相平衡をさぐる手
法であり, その特徴は関与する反応式を考えずに済むことにある. 大気成分気体
や凝縮成分を理想気体, 理想溶液の法則に従うと仮定することにより最小化計算
は大幅に簡略化され, 大気組成を簡単に変更することができるようになる.
\bigskip

この方法を用いて木星大気の鉛直温度・物質分布を計算し, 過去の研究と一致
することを確かめた. 本計算手法により, 木星型惑星に対する断熱温度減率と
凝縮物質の鉛直分布が容易に得られるようになった.
    \end{abstract}
%  ]


\section{はじめに}

木星型惑星の大気中では凝縮物質として, 固体の水, 固体のアンモニア, 固体の
メタン, 化学反応の生成物である硫化アンモニウム, 混合によるアンモニア水溶
液が生成されると考えられている(Atreya and Romani, 1985). しかし大気の運
動を考えるには, 複数の凝縮物質が存在する大気において, 大気の断熱温度勾配
や大気の静的安定度がどのようになるか調べる必要がある.


(1)木星型惑星の大気表層の元素組成は惑星毎に異なり, さらに大気深部での元
   素組成は未だよくわかっていない. 比較的観測の進んでいる木星といえども
   大気深部の元素組成は已然謎なままである. ガリレオプローブの観測による
   観測が行われたが, 雲の存在しない領域に落ちてしまったこともあり, その
   観測値が木星の平均的な大気構造を意味するか疑問である.

(2)地球の経験によれば, 大気の平均的温度構造は積雲対流によって実現される
   温度構造(湿潤断熱温度減率)によって支配される. 雲に覆われた木星大気の
   温度構造も同様に決定されると想像される. 



\bigskip


木星型惑星の大気対流研究において, 熱力学的に決まる対流平衡状態, すなわち
断熱温度減率と凝縮に伴う大気組成の変化を把握しておくことは重要である. 
対流平衡状態を探るためには, 木星型惑星の大気深部の元素組成を把握すること
が必要とされる. しかし観測が比較的進んでいる木星といえども, その元素組成
は已然謎なままである. 木星の鉛直大気構造はガリレオプローブによって測定さ
れたが, 雲の無い領域に落ちたこともあり, その観測値が木星の平均的な大気構
造を意味しているか疑問である. このように元素組成のわからない大気において
対流平衡状態を調べるには, 元素組成をパラメータとして与える必要がある. 
\bigskip

従来の木星型惑星大気の対流平衡研究では, 大気の元素組成をパラメータとして
与えた時の凝縮物質量とその持ち上げ凝結高度が研究されてきた. Atreya {\it
et al}. (1999) では大気組成として太陽系元素存在度を与え, その時の凝縮物
質量や持ち上げ凝結高度を議論している. 大気の元素組成を太陽系元素存在度に
したとき, 固体の水やアンモニアだけでなく, 化学反応によって硫化アンモニウ
ムが生成されることが予想された. しかし大気の元素組成を適当に与えた時に, 
大気の断熱温度勾配や大気の静的安定度がどのようになるかは調べられていない.
\bigskip

本研究では, 木星型惑星大気の対流平衡状態を記述するための熱力学コードを開
発することを目的とする. そのコードを用いて鉛直 1 次元の断熱温度減率と大
気組成の変化を計算する. 

\section{計算方法}

従来の木星型惑星大気の対流平衡研究では, エントロピー $S$ の保存式を, 理想
気体の状態方程式と潜熱・反応熱を用いて温度・圧力・組成の関数として定式化
した(Atreya and Romani, (1985), Atreya {\it et al}., 1999). この定式化で
は空気塊において生じうる全ての化学反応を知る必要がある. そのため
元素組成の違う大気を考える場合には, 生じうる化学反応が変わるので, 数値コー
ドを書き換える必要があった.
\bigskip
 
そもそも平衡状態を仮定しているので, 化学反応に関する情報がなくとも断熱温
度減率と凝結物質の鉛直分布は計算できるはずである.  そこで本研究では大気
の平衡状態をギブスの自由エネルギー $G$ を用いて記述することにより, 大気
中で生じる反応式を考えずに済むようにした. この方法をとることにより大気組
成を簡単に変更することのできるようになる. 
\bigskip

具体的な計算方法は以下の通りである: (1) 温度・圧力固定, 元素数保存の条件
のもとギブスの自由エネルギー $G$ を最小化し, 平衡組成を求める. (2) 温度・
圧力空間での平衡組成を用いてエントロピー $S$ を計算する. (3)温度・圧力空
間でのエントロピー$S$ から断熱線 $dS = 0$ を計算する. 尚, 断熱線の計算に
おいては擬湿潤断熱変化を仮定する. これは気体が凝縮した際に, 凝縮物が系か
ら離脱すると考えた場合に実現する断熱減率で, 離脱した凝縮物質も含めた全エ
ントロピーが保存すると考える.  \bigskip

(1)大気の平衡状態の記述: 熱力学変数として温度・圧力・物質存在量を選択す
る. このとき大気の状態を与える適切な熱力学関数はギブス自由エネルギー $G$ 
である. 大気の平衡状態はギブス自由エネルギー $G$ が最小化された状態であ
るとする. 温度・圧力を与えると, $G$ は以下のように書ける. 

\begin{eqnarray}
G(T, p, n^{\phi}_{i}) 
&=& \sum \mu_{i}^{\phi}(T, p, n^{\phi}_{i}) n_{i}^{\phi} \nonumber \\
&=& \sum 
    \left\{
        {\mu_{i}^{\circ}}^{\phi}(T) 
      + RT \ln \frac{n_{i}^{\phi}}{\sum n_{i}^{\phi}}
      + \alpha RT \ln{\frac{p}{p_0}} 
    \right\}
    n_{i}^{\phi} \nonumber
\Deqlab{1}
\end{eqnarray}

上式を最小化する物質存在量 $n_{i}^{\phi}$ を元素数保存の条件下で求め
れば, その $n_{i}^{\phi}$ が平衡組成にあたる. 
\bigskip


(2)エントロピーの計算: エントロピーは Maxwell の関係式から求めることがで
きる. 温度, 圧力, 化学ポテンシャル, 平衡組成を与えることによってエントロ
ピー $S$ が求まる. 

\begin{eqnarray}
S 
  &=& - \left( \DP{G}{T} \right)_{p, n_{i}} 
    \nonumber \\
  &=& - 
    \sum_{i} \left\{ \DP{{\mu_i^{\circ}}^{\phi}(T)}{T}
    + R \ln \left( \frac{n_i^{\phi}}{\sum n_i^{\phi}}\right) 
    + \alpha R \ln p \right\} 
    n_{i}^{\phi} \nonumber
\end{eqnarray}

\bigskip



(3)大気の断熱変化の記述: 大気の断熱変化はエントロピー S の保存として記述
することができる. 温度・圧力空間で dS = 0 の曲線の通る軌跡を順にたどれば, 
断熱温度減率と凝結物質の存在量を求めることができる.

\begin{figure}[h]
\begin{center}
\Depsf[140mm]{../ps/pseudo3.eps}
\end{center}
\caption{断熱線の求め方. Step1: 初期温度 $T_0$, 初期圧力 $p_0$での平衡組
 成を計算し, エントロピー $S_0$ を求める. Step2: 圧力 $p_1 = p_0 + dp$ 
 に変化させる. 温度を変化させた時のエントロピーを順次計算し, 前のステッ
 プでのエントロピー $S_0$ と一致する温度 $T_1$ を求める. Step3: $T_1,
 p_1$ において凝縮が生じた場合, 次のステップで保存させるエントロピーは,
 $T_1, p_1$ での気体成分のみのエントロピー ${S_4}_{\rm gas}$. Step4:
 Step 1 から Step 3 において得られた温度・圧力を順に結んで断熱線を引く. }
\end{figure}



\section{計算結果}

大気成分気体やその凝結成分を理想気体, 理想溶液の法則に従うと仮定し, 
上記の計算手法に則って木星大気における凝結物質の鉛直分布を計算し
た. モデルの検証を行うために, 大気組成は Atreya {\it et al.} (1999) と同
様にした. 


\subsection{モデルの検証}

大気組成を Atreya {\it et al}. (1999) の木星条件と同様にし, モデルの検証
を行った.  その結果を \Dfigref{kenshou-1}, \Dfigref{kenshou-2} に示す.
\Dfigref{kenshou-1} では大気組成の変化から凝縮物質の鉛直分布を計算し, そ
れを Atreya {\it et al.} (1999) と比較している. 比較の結果, 凝縮高度, 温
度分布共に Atreya {\it et al}. (1999) の結果と一致している.
\Dfigref{kenshou-2} は H$_2$O(g), NH$_3$(g) の分圧と飽和蒸気圧とをプロッ
トしたものである. H$_2$O(g), NH$_3$(g) 共に凝縮が生じてからは, 分圧と飽
和蒸気圧とが一致している. これによりモデル中で相平衡が正確に再現されて
いることがわかる. 
\bigskip

\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[60mm]{../ps/cloud-t.eps}
  \hspace{15mm}
  \Depsf[60mm]{../ps/AW1999.ps}
\end{center}
\caption{
 左: 本研究の雲密度・温度分布. 
 右: Atreya {\it et al.} (1999) の計算した雲密度・温度分布
 }
\Dfiglab{kenshou-1}
\end{figure}

\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[60mm]{../ps/vaper-H2O-edit.eps}
  \hspace{17mm}
  \Depsf[60mm]{../ps/vaper-NH3-edit.eps}
\end{center}
\caption{
 分圧と飽和蒸気圧の関係. 左: H$_2$O の分圧と飽和蒸気圧. 右: NH$_3$ の
分圧と飽和蒸気圧. 両者共に凝縮が生じてからは分圧と飽和蒸気圧が一致する. 
 }
\Dfiglab{kenshou-2}
\end{figure}



\subsection{対流平衡状態の計算}

本モデルを用いて木星での対流平衡状態を計算した. 元素組成や初期条件は 
Atreya {\it et al.} (1999) に同じとし, 断熱温度減率と大気組成の変化を
求めた. 大気組成の変化は既に \Dfigref{kenshou-1} で示した. 断熱温度減率
と大気の静的安定度を \Dfigref{keisan} に示す. 潜熱によって断熱温度減
率の大きさが変化し, 
\bigskip

\begin{figure}[h]
\begin{center}
  \Depsf[60mm]{../ps/gamma2.eps}
  \hspace{20mm}
  \Depsf[60mm]{../ps/stability2.eps}
\end{center}
\caption{
左:  断熱温度減率. 平均断熱温度減率は - 2.0 K/km. 
右: 大気の静的安定度
 }
\Dfiglab{keisan}
\end{figure}





\section{まとめ}


木星大気の熱力学状態を計算するための熱力学コードを開発し, 実際に計算を行っ
た. その結果, 未だまとめられていなかった大気の断熱温度減率を計算すること
ができた. 





\section{参考文献}

\begin{description}

\item
Atreya, S.K., Romani, P.N., 1985: 
In: Hunt. G.E. (Ed.), Planetary Meteorology. 
Cambridge University Press, pp. 17--68. 

\item
Weidenschilling

\item 
Nakajima

\end{description}


\end{document}