第1章 ロスビー波

ここではロスビー波をつかさどるもっとも単純な方程式を取り上げ,ロスビー波のイメージをつかむことにする.

1.1 基礎方程式, 線型化

系として \beta 面上の2次元非発散系を考察する.支配方程式は次のように書きくだせる.

式1.1:

       \DP{u}{x} + \DP{v}{y} = 0,

式1.2:

       \DP{u}{t} + u \DP{u}{x} + v \DD{u}{y} - fv      =  - \frac{1}{\rho} \DP{p}{x},

式1.3:

      \DP{v}{t} + u \DP{v}{x} + v \DD{v}{y} + f u         =  - \frac{1}{\rho} \DP{p}{y}.

ただし f(y)=f_{0} + \beta y, \rho= const. である*1.

[*1] この導出についてはシリーズ `2次元非圧縮流体の支配方程式'を参照せよ

基本場が u = U(y) である流れに対する線型化された擾乱の方程式は,

式1.4:

      \DP{u}{x} + \DP{v}{y} = 0,

式1.5:

      \DP{u}{t} + U \DP{u}{x} + v \DD{U}{y} - fv      =  - \frac{1}{\rho} \DP{p}{x},

式1.6:

      \DP{v}{t} + U \DP{v}{x} + f u         =  - \frac{1}{\rho} \DP{p}{y}.

式1.1 より流れ関数u = - \displaystyle{ \DP{\psi}{y} },v =   \displaystyle{ \DP{\psi}{x} }を導入することができる.式1.4式1.6より渦度方程式を作ると

式1.7:

    \left(   \DP{}{t} + U \DP{}{x}  \right)       \left(   \DP[2]{}{x} + \DP[2]{}{y} \right) \psi     + \left(\beta - \DD[2]{U}{y}\right) \DP{\psi}{x}   = 0.

この方程式は, もともとのポテンシャル渦度保存則において,基本場のポテンシャル渦度を \displaystyle{Q(y)= f(y) - \DD{U}{y} },擾乱のポテンシャル渦度は q'= \nabla^2 \psi ,速度  \displaystyle{ v = \DP{\psi}{x} }とした場合に相当する.

特に  U(y) \equiv 0 のとき, 線型化された方程式は

式1.8:

      \DP{u}{x} + \DP{v}{y} = 0,

式1.9:

      \DP{u}{t} - fv =  - \frac{1}{\rho} \DP{p}{x},

式1.10:

      \DP{v}{t} + f u   =  - \frac{1}{\rho} \DP{p}{y}

また, 式1.7 は次のようになる.

式1.11:

  \DP{}{t}      \left(   \DP[2]{}{x} + \DP[2]{}{y}  \right)\psi  + \beta \DP{\psi}{x}   = 0.

1.2 分散関係

分散関係式をもとめるために \beta を一定とし,解として平面波の形 \psi = \psi_{0}e^{i(kx+ly-\omega t)} を支配方程式に代入し整理すると,

式1.12:

  \omega = -\frac{\beta k}{k^2+l^2}.

これが 2 次元非発散ロスビー波の分散関係である.

1.3 位相速度

式1.13:

    c_{px} \equiv  \frac{\omega}{k}                      = -\frac{\beta}{k^2+l^2},    \quad     c_{py} \equiv  \frac{\omega}{l}                      = -\frac{\beta k}{l(k^2+l^2)}.

c_{px}<0 より, 位相は常に x 軸負方向(西向き)に進む.

1.4 群速度

式1.14:

   c_{gx} \equiv \DP{\omega}{k}                     = \frac{\beta (k^2-l^2)}{(k^2+l^2)^2},   \quad    c_{gy} \equiv \DP{\omega}{l}                     = \frac{2 \beta k l}{(k^2+l^2)^2}.

k>l の波束は x 軸正方向(東向き),k<l の波束は x 軸負方向(西向き)にエネルギーを伝播する.

2次元非発散ロスビー波の分散関係(<span class="equation"><img src="images/_review_math/_gen_a63c618ce1f860e99b0f8e52934f0ab60096936bfba7c17363af0fcf7093743f.png" class="math_gen_a63c618ce1f860e99b0f8e52934f0ab60096936bfba7c17363af0fcf7093743f" alt="k-\omega" /></span> 面)

図1.1: 2次元非発散ロスビー波の分散関係(k-\omega 面)

1.5 k-l 面での分散関係の表現

式1.12を変型することにより

式1.15:

       \left(   k + \frac{\beta}{2\omega}   \right)^2       + l^2       = \frac{\beta}{4\omega^2}.

\omega =const.である k,lk-l 面で表すと円になる(図1.2).また群速度は k-l 面での \omega の gradient(\Dvect{c}_g=\nabla _k\omega,\ \nabla_k=\Dvect{i} \DP{}{k}+\Dvect{j} \DP{}{l})であるから,その向きは式1.15の円の中心から円周上の点に向かう向きとなる.

ロスビー波の分散関係 (<span class="equation"><img src="images/_review_math/_gen_a6a7d3453f7601c14d7bc673b3ab76ef03d1ee68030fdcbddac6e6bd5afba497.png" class="math_gen_a6a7d3453f7601c14d7bc673b3ab76ef03d1ee68030fdcbddac6e6bd5afba497" alt="k-l" /></span> 面)

図1.2: ロスビー波の分散関係 (k-l 面)

1.6 初期値問題〜ロスビー波の分散

2 次元 \beta 面内に初期擾乱を与えたときの時間変化の計算例を図1.3に示す.与えられた擾乱がロスビー波として伝播し, 分散していく.図1.3(c),(d) において下図のような位相と群速度の関係が見られる.

初期点擾乱を与えたときの流線の時間変化.トーンの塗り方は全て同じだが, 振幅の大きいところは塗っていない.

図1.3: 初期点擾乱を与えたときの流線の時間変化.トーンの塗り方は全て同じだが, 振幅の大きいところは塗っていない.