next up previous
: 1.2 惑星大気の静的安定度の計算 : 1 静的安定度 : 1 静的安定度

1.1 静的安定度の定義

気塊を断熱的に上昇させる過程を考える. 気塊の密度と周囲の空気の密度差 によって浮力が生じ, その浮力を復元力とする振動の振動数を浮力振動数 $N$ と呼ぶ. 浮力振動数の 2 乗を静的安定度 $N^{2}$ と呼ぶ.

気塊が上昇することによって, 本来は気塊の周囲の大気の圧力と密度も影響を 受けるはずである. しかしその影響を小さいとして無視する方法をパーセル法と いう. 本節ではパーセル法による静的安定度の定式化を述べる.

気塊とその周囲の大気を考える. 気塊とその周囲の大気には以下のような関係が 成立すると仮定する.

気塊と周囲の大気の密度差は,
$\displaystyle d \rho = \rho^{*} - \rho$     (3)

と書けるので, 運動方程式は,
$\displaystyle \DD[2]{}{t} \delta z
= \frac{\left(\rho - \rho^{*}\right) g}{\rho^{*}}$     (4)

となる. ただし $g$ は重力加速度である. (4) 式右辺の $\rho, \rho^{*}$ をテーラー展開し, 2 次以上の微小項を無視すると,
$\displaystyle \frac{\left(\rho - \rho^{*}\right) g}{\rho^{*}}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{g}{\rho^{*}}
\left\{
\left(
\rho\vert _{z=z_{0}} + \DD{\rho...
...-
\left(
\rho^{*}\vert _{z=z_{0}} + \DD{\rho^{*}}{z} \delta z
\right)
\right\},$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{g}{\rho^{*}}
\left(
\DD{\rho}{z} \delta z - \DD{\rho^{*}}{z} \delta z
\right)$  

となる. ただし式変形において (1) 式の関係を用い た. 理想気体の状態方程式が成立するので, 以下のように変形できる.
$\displaystyle \frac{g}{\rho^{*}}
\left(
\DD{\rho}{z} \delta z - \DD{\rho^{*}}{z} \delta z
\right)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{g T^{*}}{ M^{*} }
\left\{
\DD{}{z} \left( \frac{M}{T} \right)
- \DD{}{z} \left( \frac{M^{*}}{T^{*}} \right)
\right\} \delta z ,$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{g T^{*}}{ M^{*} }
\left\{
M \DD{}{z} \left( \Dinv{T} \right...
...z} \left( \Dinv{T^{*}} \right)
- \Dinv{T^{*}} \DD{M^{*}}{z}
\right\} \delta z ,$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{g T^{*}}{ M^{*} }
\left\{
- \frac{M}{T^{2}} \DD{T}{z}
+ \frac{M^{*}}{{T^{*}}^{2}} \DD{T^{*}}{z}
+ \Dinv{T} \DD{M}{z}
\right\} \delta z ,$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \left\{
\frac{g} {T }
\left(
- \DD{T}{z}
+ \frac{M}{M^{*}} \DD{T^{*}}{z}
\right)
+ g
\left(
\Dinv{M} \DD{M}{z}
\right)
\right\} \delta z$ (5)

但し $M$ は大気の分子量である. また式変形において (2) 式を利用した. (5) 式を (4) 式に代入する ことで,
$\displaystyle \DD[2]{}{t} \delta z
=
\left\{
\frac{g} {T }
\left(
- \DD{T}{z}
+...
...} \DD{T^{*}}{z}
\right)
+ g
\left(
\Dinv{M} \DD{M}{z}
\right)
\right\} \delta z$     (6)

となる. 解として $\delta z = sin(Nt)$ を用いることで静的安定度は,

$\displaystyle N^2
\equiv
\frac{g}{T}
\left(
\DD{T}{z} - \frac{M}{M^{*}}\DD{T^{*}}{z}
\right)
-
g
\left(
\Dinv{M} \DD{M}{z}
\right)$     (7)

と定義される.

図 1: パーセル法による静的安定度の見積もりの概要. 気塊の周囲の大気の温度 $T$ と 分子量 $M$, 気塊の温度 $T^{*}$ と分子量 $M^{*}$ とする. $z = z_0$ において気塊と周囲の大気の密度が等しく, 理想気体の状態方程式 が成立するならば, $M/T = M^{*}/T^{*}$ となる. また気塊を上昇・下降させた際, 気塊の温度は変化するが 気塊から凝縮物が離脱しないと仮定したので, $z+dz$ における気塊の分子量は $M^{*}$ のまま維持される.
\begin{figure}\begin{center}
\Depsf[80mm]{ps/parcel.eps}
\end{center}\end{figure}


next up previous
: 1.2 惑星大気の静的安定度の計算 : 1 静的安定度 : 1 静的安定度
SUGIYAMA Ko-ichiro 平成17年8月21日