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: 1.2.1 気塊内で凝縮が生じない場合 : 1 静的安定度 : 1.1 静的安定度の定義

1.2 惑星大気の静的安定度の計算

前節の議論より, 静的安定度を与えるためには, 1) 気塊の分子量と大気の分子量との関係, 2) 大気の平均的な温度分布, 3) 大気の平均的な分子量分布, 4) 気塊の温度変化, の情報が 必要である. 本節では, その 3 つの与え方を考察する.

1) の気塊と大気の分子量の関係であるが, 理想気体の条件が成立し, かつ $z = z_{0}$ において気塊と周囲の大気温度が等しいと仮定するならば,

$\displaystyle M = M^{*}$     (8)

が成立する. その時, 静的安定度 (7)は,
$\displaystyle N^2
\equiv
\frac{g}{T}
\left(
\DD{T}{z} - \frac{M}{M^{*}}\DD{T^{*}}{z}
\right)
-
g
\left(
\Dinv{M} \DD{M}{z}
\right)$     (9)

と与えられる.

2) の大気の平均的な温度分布は, 大気の湿潤断熱温度減率から与える. Fig.2 は地球大気の平均的な温度構造の決まり方の 模式図であるが, 地球のように活発な対流を生じる大気での温度構造は 湿潤断熱的な構造となっている. 他の惑星大気においても, 活発な対流活動が 存在すれば, 温度構造は湿潤断熱的な構造になっている可能性がある.

3) の大気の平均的な分子量分布は, 大気の湿潤断熱的に決まる分子量減率を そのまま用いる. Fig.2 に示したように, 地球大気の平均分子量は ほぼ乾燥成分の分子量である. 他の惑星大気においても 平均的な分子量分布は湿潤断熱的に決まる分子量分布からずれている可能性が高 い. しかし本節では分子量の効果を最大限に見積もるために, あえて上記の設定を用いる.

4) の気塊の温度変化は断熱温度減率によって与える. 気塊内で凝縮が生じるか否かで, 湿潤断熱温度減率または乾燥断熱減率が選ばれる.

多数の凝縮成分の存在する系において,大気の平均的な温度分布と分子量分布の 具体的な定式化を与えるのは困難である. そこで本節では 3) の 気塊の温度変化 $\DD{T^{*}}{z}$ の具体的な形式を与えるにとどめる. 凝縮成分と乾燥成分の 2 成分から成る大気の大気の平均的な温度分布と分子量 分布は簡単に与えることができるが, その定式化は次章で行うこととする.

図 2: 地球大気での平均的な温度・分子量の決まりかたの模式図. 地球大気 の対流構造は, 狭い上昇流域と広い下降流域, によって特徴づけられる. 平均 的な温度は雲の中の湿潤断熱減率で決まり, 平均的な分子量は下降域の乾燥成 分のみの分子量で決まる.
\begin{figure}\begin{center}
\Depsf[140mm]{ps/cloud.eps}
\end{center}\end{figure}




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SUGIYAMA Ko-ichiro 平成17年8月21日