地球流体電脳倶楽部
1996 年 5 月 24 日
ダストの特性については探査衛星の optical data とinfrared data から得られる. ダストの特性をまとめると次のようになる (Leovy,1979).
バイキングが着陸した年に2つの global dust storm が起きた. 図1にそのときの optical depth の観測結果を示す. 図1の上の図がバイキング2号による観測結果で, 下の図がバイキング1号による 観測結果である. 図の横軸は時間を着陸船が着陸してからの日数で表してある. 図の上には対応する の値も示してある. 図の縦軸は optical depth をあらわす. 矢印でダストストームの開始時期を示してある. この図からダストストームの成長は非常に早いことがわかる. (2, 3日で optical depth が4倍になっている. ) (Leovy,1979)
global dust storm 時の地表面気圧の変化については, 「火星大気の圧力場」を参照されたい. その 図2 地表面気圧の年変化 (Hess et al.(1980)) に記されているように, ダストストーム時は気圧の日変化が増大する.
火星全体を覆うような大きなダストストームの主なものは次のとおり.
global dust storm の発生のメカニズムについてはいくつかの仮説が 出さされているが, ここでは Gierasch and Goody (1973) と Leovy, Zurek and Pollack (1973) を紹介する.
dust storm の成長するメカニズムは地球におけるハリケーンの メカニズムと同じであるという idea を出発点にする. そこで cyclonic な wind system と日射による加熱との 正の feed back system が存在すると考え, 以下に示すような数値モデルを作った.
その結果, 初期に小さなダストストームが存在したとすれば その feed back により storm が惑星規模にまで成長する可能性が あることを示した.
Gierasch and Goody (1973) は dust storm のモデルとして 図2のようなモデルを考案した.
これは地球のハリケーンのモデルをもとにして作ったものである. 図2のモデルの特徴は以下のとおり.
初期条件は で半径 の小さなダストストームが 存在するという状況を与える. 放射や対流による heat transfer を計算して
昼の場合(日射がある場合)と夜の場合(日射がない場合)
とに分けて解を求める.
図3には異なる初期値から初めた2つの計算結果が示してある.
図3は Region I と Region III との境界における接線速度 ,
ダスト層の高さ , 鉛直速度 ,
鉛直平均温度 の時間発展を示したものである.
縦軸は時間をdayであらわしてある.
縦軸は
をあらわす.
図の左側には と と の目盛が示してある.
図の右側には の目盛が示してある.
図3の上図は初期値として
Gierasch and Goody(1973)では初期に小さな ダストストーム(local dust storm)が存在したいう仮定のもとに 議論を進めたが, Leovy et al(1973)では初期の小さな ダストストームが形成されるメカニズムについて次のようなstoryを作った. local dust stormを作り出すメカニズムとして極冠からの吹き出しを考える. 南半球の春先には極冠と裸地との間で激しい温度勾配が生じる. また, 同じ時期に極冠の が昇華する. この2つの現象により, 極冠から強い吹き出しが起きると想像される. その結果, dustが巻き上げられlocal dust stormが起きると考えられる. 実際に, 極冠からの吹き出しを計算した結果が図4である. (具体的にどのような計算をしたのかはまだ良く調べていないのでわからない) 図4は極冠からの吹き出し量の年変化を示したものである. 横軸は時間軸であり, Heliocentric longitude(図の下に示してある)と (図の上に示してある)で表したものである. この計算より, 吹きだし量が最も多いのは冬の南半球の極冠 であることがわかる. よって, 冬の南半球の極域では強い吹き出しのためにdustが巻き上げられ, 小さなダストストームが起こってもよさそうだという事が言えた.
ダストストームが発生するためには砂が巻き上げられなければならない. 地表から大量の砂を巻き上げるためにはsaltationと呼ばれる現象が 重要であると言われている. saltationと呼ばれる現象の概念図を図5に示す. saltation(躍動)というのは水中または空中を砂泥粒子がバウンドしながら 運ばれる現象である. saltationが起きると輸送されている粒子が地表に衝突するたびに 他の粒子を巻き上げる(これはsuspensionと呼ばれる)ので効率良く砂が 空中に巻き上げられることになる. saltationが起きるために必要な風速の最小値は何人かの人々により estimateされている. 以下にその例を示す.
Iverson et al(1976)は風洞実験の結果からsaltationが起きるのに
最低限必要なfriction velocity: の式を次のように求めた.
Bagnold(1941)の考察によると saltation が起きるのに最低限必要な
friction velocity: は
参考までにこの friction velocity に対応する地衡風の速度を求めてみる.
Csanady(1967)によれば
謝辞
本稿は 1989 年から 1993 年に東京大学地球惑星物理学科で行われていた, 流体理論セミナーでのセミナーノートがもとになっている. 原作版は石渡正樹による「火星現象論」 (1989/05/19) であり, 林祥介によって地球流体電脳倶楽部版「火星現象論」 として書き直された (1996/06/23). 構成とデバッグに協力してくれたセミナー参加者のすべてにも 感謝しなければならない.
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