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: 4 従来の論文との比較 : 3 木星の水雲を想定した計算例 : 3.4 静的安定度

3.5 多数の凝縮成分を考慮した場合の木星大気の静的安定度

Table 1 に示された化学種を含む仮想的な木星大気の静的安定度 を計算し, 水雲下部における静的安定度の最大値と水のモル比との関係を Fig.12 に示す. 乾燥成分である H と He の存在度は太陽系元素存在度 (Anders and Grevesse, 1989) に等しいとし, 凝縮成分である C, N, O, S の存在度は太陽系元素存在度の 1, 5, 10, 30, 50 倍として計算する. Fig.12 から, 1) 静的安定度は水の存在度に比例しないこと, 2) 静的安定度が増加しない理由は静的安定度は温度の逆数に比例するためであ ることが示される.

Fig.13 は, Achterberg and Ingersoll (1989) の指摘した 静的安定度と水のモル比の比例関係((42) 式)と, 我々の計算で得られた静的安定度の最大値, さらに (40) 式をプロットしたものである. (42), (40) 式を用いる際には凝縮成分は 水のみ考慮した. Fig.13 から明らかなように, Achterberg and Ingersoll (1989) の指摘した比例関係は, 水の存在度を 太陽系元素存在度の数倍以上増加させた場合には成立しない.

Fig.14 は木星大気の凝縮成分の存在度を, 太陽系元素存在度の 1, 5, 10 倍した時の静的安定度を示す. 木星では H$_2$O(s), NH$_4$SH(s), NH$_3$(s) が凝縮し, 太陽系元素存在度の 5 倍, 10 倍とした場合には NH$_3$-H$_2$S-H$_2$O(liq) も凝縮する. 静的安定度はそれぞれの凝縮成分の凝結高度に対応したピークを持つ. 木星大気において最も安定な成層は H$_2$O によって形成される.


表 1: モデル中で考慮する大気成分. (g) は気相, (l) は液相, (s) は固相を表す.
gas (g) liquid (l) solid (s)
H$_2$, He, H$_2$O, H$_2$O, NH$_3$, H$_2$O, NH$_3$, H$_2$S,
CH$_4$, NH$_3$, H$_2$S H$_2$S, CH$_4$, CH$_4$, NH$_4$SH
spc


図 12: 木星大気に太陽組成の 1, 5, 10, 30, 50 倍の水が存在すると場合に, 水雲下端において得られた静的安定度の最大値. 静的安定度は温度の逆数に 比例するので, 温度が高くなるほど静的安定度の値は小さくなる. 星印は水雲下端において得られた静的安定度の最大値, 実線は水雲下端の温度を用いて (40) 式より求めた 静的安定度. 緑線は $T = 271.9$ K, 赤線は $T = 304.5$ K, 青線は $T = 324.5$ K, 紫線は $T = 376.6$ K, 藍色線は $T = 422.6$ K である. ただし (40) 式を利用する際には大気の凝縮成分は水のみとした.
\begin{figure}\begin{center}
\Depsf[120mm]{ps/Jupiter.ps}
\end{center}\end{figure}

図 13: 静的安定度の最大値と Acterberg and Ingersoll (1989) の指摘した 静的安定度の近似式. Achterberg and Ingersoll (1989) の指摘した比例関係は, 水の存在度を 太陽系元素存在度の数倍以上増加させた場合には成立しない. 星印は水雲下端において得られた静的安定度の最大値, 緑線はAchterberg and Ingersoll (1989) の指摘した比例の式 (42) より求めた静的安定度. 赤線は (40) 式より求めた 静的安定度($T = 271.9K$). ただし (42), (40) 式を 利用する際には大気の凝縮成分は水のみとした.
\begin{figure}\begin{center}
\Depsf[120mm]{ps/Jupiter2.ps}
\end{center}\end{figure}

図 14: 木星での静的安定度. 静的安定度のピークは凝縮に起因し, 下から順に, H$_2$O 水溶液(5 $\times $ solar, 10 $\times $ solar のみ), 氷, 硫化アンモニウム, アンモニア氷に起因する. 赤線: 1 $\times $ solar, 緑線: 5 $\times $ solar, 青線: 10 $\times $ solar. H$_2$O の凝縮による安定成層が最も大きい.
\begin{figure}\begin{center}
\Depsf[120mm]{ps/jupiter.ps}
\end{center}\end{figure}


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: 4 従来の論文との比較 : 3 木星の水雲を想定した計算例 : 3.4 静的安定度
SUGIYAMA Ko-ichiro 平成17年8月21日