本節では, 木星の水雲を想定した計算例を示す. 大気の乾燥成分として水素とヘリウムの混合大気(H/He = 0.095), 湿潤成分として水を想定する. そして温度, 相変化のエンタルピーを固定し, 水のモル比を変化させた場合の断熱温度減率と静的安定度の 変化を調べる.
計算で用いる物理量について考察する.
温度を固定した場合, 相変化のエンタルピーはクラウジウス-クラペイロンの式と
飽和蒸気圧の式から得られる. 水の飽和蒸気圧の式として Antoine の式を
利用する場合, その値は以下のように与えられる(化学便覧 改訂第四版).
(45) |
乾燥成分 | 湿潤成分(水) | |
分子量 (kg/mol) | ||
比熱 (J/K mol) | 33.5 | 27.66 |
重力加速度 (m/s) | 23.2 | |
気体定数 | 8.314 |
温度 | 相変化のエンタルピー | |
(K) | (J/K mol) | |
ケース 1 | 200 | 54417 |
ケース 2 | 300 | 44492 |
ケース 3 | 400 | 40518 |
ケース 4 | 500 | 38384 |
従来の研究では, 木星大気に含まれる水のモル比は十分小さいものとして 断熱温度減率および静的安定度を近似した式がしばしば用いられてきた. まずは木星大気におけるモル比を十分小さいとする近似の条件を求める. ついで十分大きいとする近似の条件も求めることとする 1.
凝縮成分の少ない近似の成立する条件 式は以下のように書ける.
凝縮成分の多い近似の成立する条件 式は以下のように書ける.
モル比の範囲は なので, (50)-(53) が 全て成立するモル比の範囲は のごく近傍のみである. しかし木星大気において凝縮成分のモル比が 1 となる状況は まず考えられないので, 凝縮成分の多い近似が成立することは無い.
以下では木星大気条件での乾燥断熱温度減率, 湿潤断熱温度減率, 静的安定度について, 実際にプロットした結果を一覧する.
物理量 | 水 | アンモニア | メタン |
潜熱 [J/mol] | |||
凝縮温度 [K] |